カレッジマネジメント194号
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64リクルート カレッジマネジメント194 / Sep. - Oct. 2015日常的な環境に、特性形成につながる価値規範に触れる機会や、特性形成を促す経験機会を埋め込んでいく。二つ目は、輩出メカニズムである。社会リーダーの希望者、社会リーダーとしての可能性を持った人材を表出させ、育成・支援の機会を提供していく。三つ目は、社会認知メカニズムである。活躍している社会リーダーを、社会全体のロールモデルとして広く世に知らしめることにより、社会リーダーを目指す人材・社会課題解決に取り組む企業を増やしていく。このうち、特に醸成メカニズム、輩出メカニズムが機能するために、教育機関の果たす役割は大きい。醸成メカニズムは、初等、中等、高等教育の質を、キャリア教育という側面から高めていくことで、より機能するものになる。また、輩出メカニズムの一部は、高等教育の変革によって、より機能するものとなる。論点は多々あるが、高等教育機関に期待される役割は、大きく以下の三点に集約できる。(※図表2の赤字の項目)•「社会リーダーたらん」とする人材をいかに生み出すか(Vision7)•「社会課題に気づく」人材をいかに育むか(Vision2)•「社会課題を『我が事』ととらえる」人材をいかに育むか(Vision3/9)Vision 7「社会リーダーたれ」というメッセージを、人材の発掘・選抜機会に埋め込む人生には節目があり、その節目に即して、人は何らかの意思決定をしていく。大学に進学する、企業に就職する、組織のマネジメントポジションに就く、等。これらの機会は、社会の視点から見れば、次世代の人材を発掘・選抜していく機会でもある。そして、社会は、社会リーダーの輩出を待望している。ならば、このような節目=発掘・選抜の機会に、社会リーダーでありたいという気概を持っているか、社会リーダーが持っている特性を有しているか、を問うていきたい。社会が激変し続ける今においても、社会に埋め込まれているメッセージは「知識吸収型の勉強を重ね、高い偏差値の大学に進み、安定的な雇用機会を獲得する」という旧弊な価値観に彩られている。そこに風穴を開けることで、フロントランナーの意識を変えるのだ。影響力を持ったリーディング大学が、入試制度を全面的に改める中で、こうしたメッセージを埋め込むことにより、社会全体に、社会リーダーが待ち望まれていることが伝播すれば、その精神は人口に膾炙していくに違いない。例えば、イギリスのローズ奨学金が設けている選考基準は、こうしたメカニズムが機能している好例だ。オックスフォード大学が留学生を対象として設定している世界最古の奨学金制度である同奨学金は、数多くの社会リーダーを輩出しているが、奨学金の対象となる学生の選考には以下の4つが基準となっている。1.文芸及び学術的業績2.クリケット、サッカー等の野外スポーツを愛する心と、それらにおける成功3. 真実、勇気、義務への献身、弱者への思いやりと保護、親切心、無私、友愛の資質4.道徳的力強さとリーダーシップ能力を学生時代から発揮していることこうした取り組みを、日本にも増やしていきたい。Vision 2「社会課題」との出会いは違和感から。その違和感を持ち続けさせるために社会課題に気づく、という必要条件を備えている人は、決して少なくないように思われる。しかし、現代においては、他人の心や傷を推し量るセンサーを心の中に持たない若者が増えていると指摘する声がある。特に、一流大学のエリート学生に、その傾向は顕著だという。恵まれた環境で生きてきて、人間という存在についての問題意識や、自分自身の存在感を揺るがすような葛藤や矛盾を経験したことがない、つまりは「社会というものをリアルに感じる機会が欠如している」人材が増えているのだ。そういう人も、きっと違和感は抱いている。しかし、常識や一般的な社会通念に囚われ、社会の本来あるべき姿をイメージすることなく、その違和感をやり過ごしてしまう。それは、日本の教育システムに埋め込まれている「与えられた問題の正解探し」というパラダイムとも

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