カレッジマネジメント194号
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65リクルート カレッジマネジメント194 / Sep. - Oct. 2015無縁ではない。大学への進学は、そのパラダイムのリセットの絶好の機会であるはずだ。日常生活の中で感じている違和感を題材にしながら、「自ら問題を設定し、より良い解決方法を自分の頭で考える」というパラダイム転換を促すのだ。それは、本当の意味での教養を身につける基本姿勢と言い換えられるだろう。一橋大学元学長である阿部謹也 氏は、著書「『教養』とは何か」の中で、教養を「自分が社会の中でどのような位置にあり、社会のためになにができるかを知っている状態、あるいはそれを知ろうと努力している状況」と定義している。そのような人材こそ、今、社会が求める人材であり、社会リーダーの礎となるものである。Vision 3/9「人と違うことを恐れない」に至るために、誰とも違う自分に出会う機会の創造を社会課題を我が事と捉えられる人は、「人と違うことを恐れない」という思考特性を持っていた。この特性は、同質性の高い日本においては、なかなか育ちにくいものだ。「誰とも違う自分」を、誰しもが持っている。取材に応じてくれたある社会リーダーは「その人しか今まで経験していないこと、問題意識を持たないこと、嫌だと思わなかったこと、いいと思わなかったことがある。結局全員、社会リーダーになれるし、なるべきだと思う」と言い切った。しかし、正解探し型の画一的な教育や、新卒で正社員にならないと脱落してしまうかに見える単線的なキャリアパスは、多くの人を「誰とも違う自分であること」から遠ざけてしまう。人と違った考え方、問題意識、選択をすることは、素晴らしいということを多くの人に実感してほしい。それを実感できるのは、出自、世代、価値観等が異なる、多様な他者が集う場であるはずだ。そうした多様な他者との接点を通して、ひとは己を省み、誰とも違う自分を自覚する。このような良質な内省の機会を大学キャンパス内に創出したい。同世代の同質的な大学生だけではなく、留学生、社会人学生等、多様な他者が在籍し、交流することが肝要である。海外への留学という機会は、その最たるものだろう。また、産学協働、地域協働は、こうした観点からも、「活きた社会をリアルに感じる機会」という側面からも、極めて望ましいものだ。リーダーは、一部の人がなればいいのではない。全ての学生にリーダーシップを。最後に、改めて、リーダーについて触れておきたい。近年、大学内に私塾的なコースを設定するなど、少人数の選抜型リーダー育成カリキュラムが散見される。高い実効が挙がっているものもあると聞く。このような取り組みは高く評価したい。しかし、その他大勢の大学生はリーダーシップを持たなくていいのかといえば、それは違う。冒頭にも記述したように、今、日本は多くの社会リーダーを必要としている。そしてそのリーダーは、企業・団体等の組織のポジションに就くことによってではなく、自らの想いを実現するために自発的に立ち上がる、つまりはリーダーシップを発揮することによって、初めて生まれる。社会課題に気づき、その社会課題を我が事と捉え、立ち上がる人材を育成することは、一部の大学だけがやることではないし、一部の大学生だけに必要な能力でもない。グローバルな社会課題や、日本全体の大きな社会課題と同時に、各地域、各分野においても、たくさんの社会課題が日々発生している。多くの大学が、社会リーダーを育て輩出するという矜持を持って、それを教育に反映して頂くことを強く願っている。●リクルートワークス研究所「『社会リーダー』の創造」研究プロジェクトによるレポート全文が、以下のホームページにてご覧頂けます。http://www.works-i.com/research/leader/

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