カレッジマネジメント194号
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79者選抜方法、「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」の導入をはじめとする諸施策が検討されている。本改革の前提となる問題意識や基本的な考え方について理解を示しつつも、限られた時間の中での制度設計や実現可能性に懸念を示す声は少なくない。「実践的な職業教育を行う新たな高等教育機関の在り方」については、社会や産業の急速な変化に伴う人材需要に即応した質の高い職業人の育成という点において、現行制度上の学校種だけでは限界があるとの認識のもと、社会人の学び直し需要や地方創生への対応等の観点も踏まえ、高等教育体系を多様化し、実践的な職業教育を行う新たな高等教育機関の制度化を図るものである。現在、大学体系の中に位置付ける方向で、目的、教育内容・方法、修業年限、学位・称号、質の保証システム等、制度化に向けた検討が行われている。本改革に関連して、経済同友会は2015年2月27 日付で公表した意見の中で、「現状の学術重視型の大学を頂点とする一つ山構造から、実践的な職業教育を提供する実学重視型の高等教育機関を大学またはそれに相当するハイレベルなものとして位置づけ、二つ目の高い山を成長させていくことを目指すべき」との考えを示している。「学術重視型の大学を頂点とする一つ山構造」という現状認識の妥当性、「実践的な職業教育」の具体的な内容、二つ山構造とすることの意味と問題等、議論を尽くすべき事柄は多いが、職業能力の育成について、現在の大学教育に対する根強い不満があることは明らかである。経済成長への貢献に対する期待にどう向き合うかこれらの背景にあるのは、厳しい時代を生きるこれからの世代に「生きる力」を身につけさせること、国内需要の縮小とグローバル化が進む経済において国の成長力を確保すること、そのために教育改革は待ったなしであること、といった強い問題意識である。国の成長力について、経済指標の推移を確認すると、1995年時点で世界経済の17.2%を占めていた日本の名目GDP(ドルベース)は、2013年において6.5%となり、同時期に中国は2.3%から12.1%に急成長を遂げている。また、一人当たり名目GDP(円ベース)の国別比較において、日本は1995年度の世界3位から2013年度は19位まで大きく順位を下げており、同時期に、雇用者報酬も270兆円から248兆円に減少している。成長には、環境・資源問題、過度な競争や利益追求等負の側面も少なくないが、財政及び社会保障システムの持続可能性、社会活力の維持、国際社会でのプレゼンスの確保などを考えると、適度な速度での成長は今後も必要と思われる。経済成長を支える3要素のうち労働投入量と資本投入量の増加が期待できない中、全要素生産性(TFP:Total Factor Productivity)をいかに高めるかが問われており、そのために政府は、成長戦略において、イノベーションの促進や人材力の強化等を打ち出し、大学にも一層の貢献を求めている。言うまでもなく、大学における教育研究の目的は経済成長への貢献にとどまるものではない。個人の精神的豊かさ、社会の文化的豊かさ、人類社会の未来を拓くことへの貢献は大学の大きな使命であるが、成長なしにその活動を支えることが一層難しくなりつつある現実も踏まえておく必要がある。変革の担い手となり得る人材への期待が高いマクロからミクロに視点を移し、大学卒業後の最大の進路先である企業が、実際にどのような人材を求めているのか、具体的に見てみたい。本誌が2008年5-6月号から2012年9-10月号にかけて連載した「本当に欲しい人材」は、20の業界をとりあげ、ジャーナリストの溝上憲文氏が合計60社以上の人事担当者へのインタビューを通じて、企業の求める人材像と能力要件等を業種ごとにまとめたものである。多少時間が経過しているものの、企業の生の声を集めたものとして興味深い。まず、多くの業種・企業が、経営環境に関する認識として、国内市場の縮小や成熟化、新興国を中心とする海外需要の拡大、国内外における競争の激化、の3点を挙げている。その上で、顧客のニーズを探り、従来の発想にとらわリクルート カレッジマネジメント194 / Sep. - Oct. 2015

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