カレッジマネジメント195号
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27開されていた。その京學堂は今、太秦キャンパスの道路に面した場所で営業を続けている。亀岡キャンパス内にあった京學堂は、今後は京都市民を相手に営業を行う。学生は最前線の現場で経営の現実と向き合うことになるだろう。また、人間文化学部は、今回「人文学部」に改組され、学科も大きく歴史文化学科と心理学科に再編された。しかも前者は新しい太秦キャンパスに進出し、後者は亀岡キャンパスに残ることとなった。心理学科は実験心理学に力を入れてきた伝統があり、そのための実習・実験施設が亀岡に整備されていることを考慮したのだという。対照的に、歴史文化学科は太秦キャンパスにあるほうが、京都の歴史や文化を実際のフィールドワークを通して学ぶのに適していると判断された。健康医療学部やバイオ環境学部についても同様に、地域特性への配慮がみられる。新設の健康医療学部3学科のうち2学科(看護学科と言語聴覚学科)は太秦キャンパスに置かれた。看護学科開設にあたっては京都府立医科大学と包括協定を締結し、関連の公立病院での実習が可能になった。太秦キャンパス北側の土地には今後、専門学校や病院が入る計画もあり、そうなればさらなる連携の可能性も模索できるそうだ。他方、健康医療学部の健康スポーツ学科は運動系研究施設の充実した亀岡キャンパスに置かれ、今年バイオ環境学部に新設された食農学科も、学内に食品開発センターを設置するとともに京都の台所といわれるほど農業の盛んな亀岡に置かれた。亀岡にあるほうが教育効果が期待できるはずと石原法人事務局長は説明する。共通教育やキャリア教育については、これまで同様、全員が同じ教育を受けられる環境を確保する一方で、亀岡と太秦の強みを活かした教育も提供していくのだという。都市部と非都市部それぞれの地域特性を踏まえた学部・学科の配置には、十分な教育効果が担保されている。次なる課題としてのカリキュラム改革京学大のダブルキャンパス化は、一つの大学が自らの危機を克服しようと再生に向けて取り組んだプロセスとして描くことができる。キャンパス設置と組織改組を一度に遂行することの苦労は想像に難くない。「職員にとっても一生に一度あるかないかの改革。今はダブルキャンパスをうまく回すだけで精一杯だ」と吐露する菅大学事務局長の言葉に嘘はないだろう。今回の改革が本当の意味で根付くにはもう少し時間が必要となるにちがいない。ただ、大学を取り巻く環境が日々変化のスピードを上げていることも確かだ。次の手を打っていく必要がある。今後、京学大は何を課題として取り組んでいくつもりなのか。篠原学長に訊ねてみた。篠原学長は今年4月に就任したばかり。しかも、学外から就任した初めての学長だ。これから本格的に京学大の改革・改善に取り組んでいくことになる。そんな篠原学長が最優先課題に挙げるのがカリキュラム改革だ。もちろん、新しい学部・学科体制が始まったところで、その完成年度になる4年後まではカリキュラムを大きく変えることはできない。しかし、もう一段の飛躍を期すにはカリキュラムを根本的に変えていく必要があるというのが学長の認識だ。例えば、経済学を専門としてきた学長の目には、経済学教育も問題だと映る。どこの大学でも、30年も40年も前と変わらない科目がずらりと並び、同じような教科書を用いて変わらない方法で教育が提供されている。それを根本的に変えていきたいという。そう考える背景には、社会自体が本質的に変化してきているという基本認識がある。これから学生が生きていくグローバル社会では、一度学んだ専門性が一生役に立つということはないはずだと篠原学長は強調する。そんな予測困難な変化に対応できる学生をどう育成するか。それこそがカリキュラム改革の原点になるという。そうした観点から、卒業後にどんな学力やものの見方が必要になるのかを見極め、そこに到達するために4年間でどういうことを学んだらいいのかという発想でカリキュラム改革を進めたいと学長はいう。今後1・2年をかけてカリキュラムを一から構想するため、近く外部識者も加えたプロジェクトチームを作る予定だ。カリキュラム改革が目指すのは、京学大を卒業する時点で社会に受け入れられるに足るレベルまで学生を育て上げることだ。そこには、現在の大学教育が共通して有すべき、愚直だが真っ当な姿勢が垣間見える。ダブルキャンパス化を果たした京学大は、これから数年後、また新たな姿を見せてくれるにちがいない。リクルート カレッジマネジメント195 / Nov. - Dec. 2015(杉本和弘 東北大学高度教養教育・学生支援機構教授)特集 都市部を目指す大学Ⅱ

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