カレッジマネジメント195号
31/56

31や近畿圏の大学に進学する層が、自宅から通学できるということで、愛知学院大学を選択肢として考えてくれるようにもなった。好循環の兆しは、入口だけではなく、出口にもかいま見える。高い就職率である。商・経営系の学部における就職率ランキングでは、経営学部は全国12位(93.1%)、商学部は全国14位(92.9%)と、いずれも健闘している(『サンデー毎日』2015.8.9号、71p)。卒業者と就職者がともに300人を超える学部に絞るなら、押しも押されもしない1位と2位に躍り出る。「学生諸君とキャリアセンターの頑張りの成果」と佐藤学長は語る。このように、学生募集面と卒業後の進路という二つの側面で、目に見える変化が生じている。このことが持つ意味は大きい。保護者にとっては、下宿をさせなければいけないのが通学で済むのは、経済的な負担が相当に減る。学生本人にとっても、アルバイト等がしやすくなるのは大きなメリットである。そのうえで、就職率が良いことが、進路を選び取ろうとしている高校生やその保護者にとって、どれだけ魅力的に映ることだろうか。往時に比べれば、大学教育はかなり「高い買い物」になっている。教育内容、費用等に向けられる視線が厳しくなっていることを肌で感じている読者諸氏ほど、このアドバンテージが長期的に持つ価値を感じることだろう。キャンパス移転がもたらす変化は、劇的に、そして継続的に進行している。課題はキャンパスごとの自律と一体のバランスもちろん、マルチキャンパス化が全て薔薇色というわけでは決してない。例えば、教職員間のコミュニケーションにロスが生じやすいという、マルチキャンパス化が避けがたい課題に愛知学院大学も直面している。新キャンパスを設置したことで、愛知学院大学も遠隔会議を増やさざるを得なくなった。学部長会議等、執行部の会議は対面で行っているが、学部連絡会議等は遠隔会議での実施となっている。そのため、日進・楠元・末盛キャンパスに置かれている学長補佐が名城公園キャンパスにも置かれることになった。各キャンパスが機動的に動きつつ、かつ全学としても有機的に動かねばならなくなる局面は増えていくだろう。学長と各キャンパスの間をつなぐ学長補佐の役割はますます大きくなっていくに違いない。では、キャンパスが分散したことで、各キャンパスの自律性の高まりと愛知学院大学としての一体性のバランスがカギを握るこの状況下で、今後の方向をどのように展望しているのだろうか。佐藤学長は「“ここ”でしかできないことをやろうというのが基本」と語る。1年生が多く活力にあふれ、スポーツ・文化系のクラブが日々活動し、自由な気風が薫る日進キャンパス、実学が学べる地域連携のハブたる名城公園キャンパス、医療拠点である楠元・末盛キャンパスのそれぞれに積み重ねてきたものがあり、その中にシーズは眠っている。各キャンパスでしかできないこと、各キャンパスだからこそできることがある。日進キャンパスを例に取るなら、学部移転に伴う空間的余裕を生かし、新たな教育を模索する余地が生まれている。既存のリソースを積極的に活用する観点から言えば、全学の施設設備であるスポーツセンターを生かしてスポーツ系の教育を充実化させることはシーズの一つであり、また実際に検討が始まっている。名城公園キャンパスならば、既に地域の政財界から講師を招く等は行ってきているが、今後は地域の政財界をマーケットに見立て、学習の機会を提供するという道も当然考えられよう。名城公園キャンパスの立地が持つポテンシャルだけではなく、3学部移転によって日進キャンパスから掘り起こされたポテンシャルをも愛知学院大学はいま手にしている。 このポテンシャルをどう生かすのか。139年の伝統を積み重ねてきた愛知学院大学は、次の10年、即ち150年に向けた戦略の構想を既に練り始めている。未来を展望するとしても、立ち戻るのは「行学(ぎょうがく)一体」「報恩感謝」、つまり139年を経て変わらぬ愛知学院の建学の精神である。佐藤学長は最後に「学生には、学んだこととできることが一致していてほしい。そして、広い視野で、多様性を認めることを通じて、自分という存在を自覚してほしい」と語ってくれた。そこには、愛知学院での学びが、ただ実学を身につけたというところにとどまらず、人格もともに向上させるものとして実りあるようにとの、時を経ても変わらぬ願いが込められている。リクルート カレッジマネジメント195 / Nov. - Dec. 2015(立石慎治 国立教育政策研究所高等教育研究部 研究員)特集 都市部を目指す大学Ⅱ

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer10.2以上が必要です