カレッジマネジメント196号
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11リクルート カレッジマネジメント196 / Jan. - Feb. 2016――今年度の就職・採用戦線は、活動開始時期の後ろ倒しによって、例年とは違う状況が見られたのではないかと思います。実際には、どのようなことが起こっていたのでしょうか。今年度の就職・採用戦線においては、時期変更が大きな焦点だったわけですが、それと並んで大きなポイントだったのは、「求人倍率が非常に高かった」ことです。今年度の大卒求人倍率は、1.73倍(図表1)。これがどれくらい高い数値かといえば、例えば2000年代の平均は1.3倍程度であり、また、2011年~2014年は1.3倍を下回っていました。ところが昨年度に1.61倍と跳ね上がり、そこから引き続く上がり基調の中での1.73倍というのは、「今年は良い人材が採りづらいのでは」と企業が危機感を募らせるのに十分な数値だったといえます。ただし、大卒求人倍率は業種間で差があり、高かったのは建設業(6.18倍)や流通業(5.65倍)。変わらず低いのは、金融業(0.23倍)、サービス・情報業(0.56倍)。製造業は1.73倍と、希望する学生数よりも求人数のほうが多い状態ですが、建設業・流通業ほどの需給ミスマッチはありません。さらに、従業員規模別でも差があり、「300人未満企業」は大卒求人倍率が3.59倍なのに対し、「5000人以上企業」は0.70倍でした(図表2)。今年度の大卒求人倍率の上昇の背景には「中途採用の採用難」があります。今年度の有効求人倍率(新規学卒者及びパートタイムを除く)は1.01倍と、バブル期以来の高水準でした。労働市場全体での「人手不足感」が高まる中、通常は新卒採用を行わない中小企業の一部が大卒市場に進出したのです。時期変更に関しては、2013年度にも広報活動開始の2カ月繰り下げがありましたが、今回は「広報活動開始が3カ月繰り下げ」、「採用選考活動開始が4カ月繰り下げ」と(図表3)、3年前と比べても大幅な変更だったことが、各方面に様々な影響を及ぼしたように思います。最大の影響は企業の採用活動時期が「分散化」したことです。それは就職内定率の推移から見て取れます(14頁、図表4)。採用選考が「4月開始」だった昨年度は、4月の18.5%から5月の47.7%へと一気に上がり、その後少しずつ上昇する曲線を描きました。一方「8月開始」となった今年度は、4月7.5%から始まり、8月65.3%まで直線的な右肩上2016年度就職活動は分散化・長期化岡崎仁美 就職みらい研究所 所長要因は時期変更の混乱と高水準の求人倍率●PROFILE1993年(株)リクルートに新卒入社。以来一貫して人材関連事業に従事。営業担当として中堅・中小企業を中心に約2000社の人材採用・育成に携わった後、転職情報誌『B-ing関東版』編集企画マネジャー、同誌副編集長、転職サイト『リクナビNEXT』編集長、『リクナビ』編集長を歴任。2013年3月、就職みらい研究所を設立し所長に就任。特集 “学ぶ”と“働く”をつなぐⅡINTERVIEW2016年度卒業生の就職・採用活動は、その開始時期変更が内閣総理大臣より経済団体及び大学等に要請され、就職問題懇談会においても実施が申し合わされた。活動を振り返ってみて、その実態は例年とどう変わったのか。就職みらい研究所の岡崎仁美所長に今年度の就職・採用戦線の状況を聞いた。(聞き手/本誌編集長 小林 浩)
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