カレッジマネジメント196号
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28リクルート カレッジマネジメント196 / Jan. - Feb. 2016社会は様々なセクターの複合体であり、どのセクターも、周囲のセクターと互いに干渉や反発や妥協や協力を重ねながら、均衡する方向に変化を遂げてきた。だから、どこかのセクターで問題が発生した時に、その分野だけが不連続な動きをとれば、周囲と軋みを起こし、それは長続きしない。つまり、出来上がってしまっている社会は、文化や習慣の異なる別の社会から、何か一つの機能を単純に取り込むことが難しい。例えば、教育や雇用や家族のあり方や男女の恋愛作法等、どれをとっても、今の日本に、他国の羨むべき風習をそのまま移植することはできない。それは、血液型も免疫機構も異なる他者の臓器を、自己の弱った臓器と入れ替えるようなものだ。私が主戦場としている雇用の場では、こんな無理筋の移植論議が性懲りもなく繰り返される。もちろん、そんな現実離れした改革案はどれも結実しはしない。教育には同じ轍を踏まないでほしい。グローバル化や産業の高度化といったご託宣があふれるせいで、「すぐにでも欧米の使えそうな仕組みを移植手術せねば」という気持ちが高まる。ただ、そのほとんどが現実には着地できない。この小文では、近頃喧しい「教育と職業の接合」論議について、大いに冷や水を浴びせたい。そして、日本の社会と産業が本当に求めている解を提示しておく。それは、G型L型などと騒ぐほどの話ではなく、当たり前で実現可能な改革にとどまる。ポテンシャルで採用する日本、スキルで採否を決める欧州日本と欧米、とりわけ欧州を比べた時に、産業と教育の接合に大きな違いがあることは、既によく知られている。その違いを、ものすごく単純化して語るならば、以下のようになるだろう。■日本の産業界は、職業教育は会社に入ってから自社で行う。それを教育界には求めない。企業が採用時に気にするのは出身校の偏差値であり、あとは、本人のキャラクターや基礎能力となる。■欧州の産業界は、職業教育された実務能力のある人を雇う。だから、教育界に職業教育を求める。それぞれG型でもL型でもない、本当に日本に必要な大学海老原 嗣生流行りの“抜本的改革”などではなく、地に足の着いた改良を経済産業研究所 雇用労働市場改革プロジェクト員立命館大学 客員教授人材・経営誌HRmics編集長株式会社ニッチモ代表取締役リクルートキャリア フェロー(特別研究員)●PROFILE1964年、東京生まれ。大手メーカーを経て、リクルートエイブリック(現リクルートエージェント)入社。新規事業の企画・推進、人事制度設計等に携わる。その後、リクルートワークス研究所にて雑誌Works編集長。2008年にHRコンサルティング会社ニッチモを立ち上げる。著書に、『雇用の常識、本当に見えるウソ(プレジデント)』『偏差値・知名度ではわからない 就職に強い大学・学部(朝日新書)』『日本人はどのように仕事をしてきたか (中公新書ラクレ)』ほか多数。『エンゼルバンク』(モーニング連載、テレビ朝日系でドラマ化)の主人公 海老沢康生のモデルでもある。 欧州との比較で、日本型の“学ぶ”と“働く”の接続を考えるOPINION雇用論議での過ちを教育改革に持ち込むな
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