カレッジマネジメント196号
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29リクルート カレッジマネジメント196 / Jan. - Feb. 2016の仕事ができる・できないが、採用の基準となる。この両者を比べれば、明らかに欧州のほうが採用基準に透明性があり、労働者や学生も何を身につければよいか明確に分かる。つまり合理性が高いと言えよう。こんな非合理的な日本社会でも、かつてなら、多くの学生達が卒業時点で職を見つけることができた。だから社会的にも不満が溜まることはなかった。ところが、昨今では大卒でも正社員就職が厳しくなっている。とすると、この不透明な採用基準をただし、学生の間に身につけるべき職業能力を明らかにし、それを在学中に教えるべき、という意見が勢いを増すことになる。ここまでは、論理的には何の不整合もない。ところが、現実にそんな仕組みを取り入れた時、日本社会には大きな混乱が起きることになる。なぜか。よく考えてほしい。例えば、今、ここにいる学生が「経理事務」として、伝票処理や仕訳が万能にできるとする。その学生を採用する企業はどんなことを考えているか。日本人ならあくまでも「事務は入口であり、数年したら、決算業務をリードする人物になり、その後、税務や管理会計も覚え、35歳にもなれば、経営管理業務に携わるように育ってほしい」と考えるだろう。つまり、「経理事務」はあくまでもキャリアの入口であって、それがうまい下手よりも、将来、決算→税務→管理会計→経営管理と階段を上っていけるような「人間性」のほうが採用基準として重要になる(図表1)。欧州の場合はそれが全く異なる。例外的なケースを除けば、事務で入った人は、一生事務をする。だから、入口で「事務力」以外は問われない。階段を上らないキャリアだからだ。財務会計や管理会計については、大学などでその業務を学んだ人が就く。そして、彼らも一生それをする。経営管理に関しては、グランゼコールや大学院などで、それを学んだ人が就く。こんな形で、学歴と専攻に従って、公的な職業資格が与えられ、それにふさわしい仕事をする。つまり、一生事務のまま、決算担当のまま、そんな構造になっているのだ。欧州ではどの国にも、この学歴×職業×資格という仕組みが存在するが、フランスは特に細かく区分を分けており、公的な職業資格は8000を超える。学歴と資格に区切られたこの職業体系を同国では「ディプロム」と呼ぶ。図表1 日本と欧州のキャリア構造の違い 経営管理 (個別スペック採用) 該当職務ができる人を採用 上に上れる人を採用 (ハイパーメリトリック採用) 管理会計 財務会計 経理事務 グランゼコール 学校 職務 職群 経営管理 管理会計 財務会計 経理事務 カードル 中間職 資格労働 大学院 大学 大学(職業課程) STS/IUT(高専) 忍耐力 継続力 思考力 説明力 協調性 企業のニーズ 大学の教育 社会適応力 企業との相性 基礎学力 欧州の場合 日本の場合 同じ仕事を継続 同じ仕事を継続 同じ仕事を継続 同じ仕事を継続 前半 20代 30代 後半 後半 前半 30代後半 30代前半 20代後半 20代前半 管理会計 資金繰り 管理職 決算 税務 入出金 経理事務 特集 “学ぶ”と“働く”をつなぐⅡ

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