カレッジマネジメント196号
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34リクルート カレッジマネジメント196 / Jan. - Feb. 2016方を示した。ただ、批判だけで終えては意味がない。日本の産業はどのような大学教育を欲し、同時に、どのような仕組みであれば、日本の社会や個人の心になじむのか、を書いていきたい。まず、再度言うが、日本の企業は、「入った時の仕事をずっとしていられては困る。習熟を積んでどんどん上の仕事を目指してほしい」と考えている。同時に働く人々は、「同じ給与で同じ仕事だったら、いつかは飽きてしまう」と思っている。要は、どちらも「階段を上る」ことが前提なのだ。とすると、この力を厳しく育ててほしい。それが大前提となる。さて、こう書くと「それは社会人基礎力のようなものか」という質問が出そうだ。いいや、そんな小難しい力ではない。多くの学生は普通の中堅・中小企業に就職していく。そうした企業で普通に「階段を上っていく」力とは、何だろうか。まず、日本型の職務無限定雇用の仕組みはどうなっているかを最初に書いておく。それは、欧米のようにやるべき課業(=タスク)がパッケージとして決められ(=ジョブ)、それだけをやるという仕組みとは全く異なる。誰にでもできそうな仕事を寄せ集め、何も知らない未経験者にやらせることから始まる。だから、素人でも問題なく入り込める。ただ、それでも当初は戸惑う。そこで叱られ、恥をかき、それに耐えると、じきにうまくなる。それでぱっぱとこなして早く帰ろうとすると、「暇してるのは許さない」と、タスクを入れ替えられ、難易度の高いものが増えていく。そこでまた、叱られ、恥をかき、耐える…。こんな形で、知らない間にどんどん難易度が上がっていく。だから脱落少なく成長ができる。決して「教育に力を入れている」わけではない。単に、「暇してるんなら、もっとやれ」の連続となる。企業が必要とする当たり前の力この「叱られ、恥をかき、慣れたら次の難題が与えられる」仕組みについていけるような人間形成を、企業は一番望んでいるのだ。具体的に企業が必要としている能力は以下の通りとなるだろう。1)忍耐力・継続力2)思考力(論理構成)3)咀嚼力・説明力(話す・聞く)4)協調性(仲間とうまくやる)5)社会適応力(マナー、ルールを守る)この5つが揃っていれば、そこそこの企業に採用はされるだろう。ところがこの5つが最近(いや昔からか)の大学生には乏しい。だから就職が覚束なくなる。さあ、ここに挙げたものを鍛えるのはどうしたらよいか?まず、1~3の「忍耐、継続、論理構成、話す、聞く」の力。これこそ、コロンブスの卵というか、本来のアカデミズムの本道だろう。スキル教育ではなく、学問を修得する努力が、こうした力を培う。何よりも、アカデミズムこそ、こうした全人格形成に資するのだから。ならば、G型L型といった区分など考える必要はない。講義やゼミの運営を徹底的にハードにすれば、それで済むのではないか?授業に即して、毎回レポートを書かせる。それも、「書けばいい」という内容ではなく、論旨の乱れを突き、冗長な文体をただし、的確な比喩や模式化を使えるように、びっしり赤入れをする。講義ではプレゼンテーションやディベートを取り入れる。それも、聴衆学生達に評価をさせ、理解できたか、納得できたか、どちらが勝ちかなどを突きつける。期末に論文を出させ、それは学術論文同様にしっかり査読し、付箋をびっしり貼って、それをクリアするまで、何度も出し直しをさせる。こんな授業を繰り返せば、「話す」「聞く」「考える」「理解する」「耐える」「続ける」力は自ずと培われていくだろう。その過程は、企業の「無理難題」に耐えながら腕を磨く社会人生活と相通じる。こんな苦労をしてきた人達ならば、企業の生活こそ「楽」に感じるのではないか。今の学部編成でその力は十分培えるで、何を題材にするか。再度言おう。題材は、今の学部構成のままでいい。法律・政治、経済・経営、文学、教育といったいわゆる一般的な専攻のままで、その中にいく
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