カレッジマネジメント196号
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57リクルート カレッジマネジメント196 / Jan. - Feb. 2016国公私立大学の教育研究基盤を揺るがす動きが加速国立大学に関しては、2015年6月の文部科学大臣決定「国立大学法人等の組織及び業務全般の見直しについて(通知)」が、人文社会科学を軽視したものとの批判を含めて社会的に大きな波紋を広げた。私立大学に関しては、同年7月の「平成28年度以降の定員管理に係る私立大学等経常費補助金の取扱について(通知)」において、補助金配分の基準となる入学定員超過率の厳格と平成31年度からの入学定員を上回る学生分の減額措置の導入が示され、私学経営に突きつけられた厳しい課題として深刻に受け止められている。さらに、同年10月に開催された財政制度等審議会財政制度分科会では、国立大学法人収入について今後15年間、運営費交付金を毎年1%ずつ減少させ、自己収入を毎年1.6%ずつ増加させた試算が示された。その場合、国立大学法人の運営費交付金総額は2031年度で9826億円となり、2013年度に比べて1948億円の減額になる。これらを受けて、2015年11月、国立大学協会、公立大学協会、日本私立大学団体連合会の連名で「国家予算における国公私立大学の基盤的経費拡充に関する要望」を財務大臣と文部科学大臣に提出している。危機的な財政状況を背景に、国公私立大学の教育研究基盤を揺るがす動きが加速している。「現場」と「エビデンス」を重視して改革を加速半世紀もの長きにわたり改革の必要性が認識されながらも大学の動きは緩慢であった。ここにきて、左図に示す通り、グローバル化、イノベーション、地方創生など社会的要請がさらに増大し、一方で、危機的な財政状況、家計の悪化、18歳人口の減少が大学の経営基盤を激しく揺るがす事態が進行している。国公私立を問わず、変えるべき部分は数限りなくある。しかしながら、国の政策にしても、個別大学の改革であっても、これまでの延長線上でただ危機感を煽り、新たな提案をさせ、努力を促すだけでは、形が少し変わる程度で、中身は何も変わらないだろう。永井(1969、前掲書)も「今日の日本の大学において、変革を要するものは中身です。何を捨て、何をつくるのか。大学の現状をみつめ、理想を探求し、確立し、これにもとづいて改革のプランをつくりあげなければならないのです」と述べている。そのために必要なことは、国が高等教育のグランド・デザインを示し、個別プランの立案と実行は大学に任せ、社会とアカデミアが厳格に評価する、という役割分担を明確にし、それぞれが責任を持って役割遂行に専念することであろう。特に、観念論や感覚に基づいて一律に改革を促すことは避けるべきである。各大学や各学部が実態を正しく把握し、「欠けているもの」、「底上げすべきもの」、「さらに伸ばすもの」を見極めた上で、焦点を絞り、優先順位をつけて実行し、その成果を正しく発信することが大切である。そのためにも、政策立案、大学・学部のプラン策定、評価、社会への情報発信等を、正確な事実(エビデンス)に基づいて行う必要がある。IR(Institutional Research)が重視されるのもこのような理解に基づくものである。機関内のみのデータにとどまらず、機関を超えたデータベースの構築も不可欠である。大学ポートレートにはその狙いもあったはずだが、現時点ではその期待に応えられていない。大阪府立大学高等教育推進機構副機構長の高橋哲也教授は「日本は高等教育に関する共通のデータベースの構築が決定的に遅れている。英国ではUnistatsという全大学のコース(日本でいう学科レベル)の受験生にとって重要な情報をKIS(Key Information Set)として、相互比較可能な形で公開しているだけでなく、高等教育統計局(HESA)が収集している各大学の集計データが全大学で共有されており大学の戦略の策定や意思決定に使われている。大学の改革がいつまでも印象論で語られる状況を打破するためにも、大学の成果をデータに基づいて検証できる環境を構築すべきである」と強調する。「現場からの改革」と「エビデンスに基づく企画・評価・発信」を重視して、中身を変える改革を加速させなければならない。

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