カレッジマネジメント197号
34/72

34どんな能力を持った学生をいかなる方法で受け入れるのか。大学にとって、入学者選抜の設計は自らの今後を左右する古くて新しい課題だ。大学進学者の多様化が進む昨今、大学は留学生を含めた優秀な学生の獲得に知恵を絞る必要がある。他方で、入学者の側に視点を転じてみれば、今や進学先の選択肢は、国内外に広がっている。グローバル化時代だ。何も自国の大学にこだわる必要はない。確かに、学生獲得競争はグローバルなレベルで展開されつつある。安穏と待っていれば学生がやってくる時代ではない。ただ、学生獲得数の多寡で勝負が決まるというほど、ことは単純でもない。量だけでなく質も重要だからだ。いかに大学の理念に沿った、大学が欲しい優秀な学生を集められるかが鍵だ。大学が求める人材像は何か、明確に且つ積極的に発信し、受験生にメッセージを届ける努力が大学には求められている。そこで本稿では、京都大学(以下、京大)の事例に注目したい。京大は、今年度(2016年度入試)から「特色入試」と呼ぶ新しい選抜方式を導入した。特色入試は、入学定員2900名弱のわずか4%程度(108名)を占めるに過ぎないが、学力のみを判断基準にする従来型入試では測れない受験生の能力や可能性を読み取ろうとする、新たな試みだ。そこには、受験生に対する京大からのメッセージが込められている。「特色入試」が導入された経緯、実施初年度の手応え、そして今後の展望について、山極壽一総長、有賀哲也副学長にお話をうかがった。言わずと知れた日本を代表する国立大学の一つだ。何につけ、京大の動静は世間の耳目を集める。特色入試も話題を集め、メディアでも度々取り上げられてきた。しかし、特色入試に込められた大学の意図は必ずしも十分に理解されていない。それを理解するには、過去20年余りに生じた大学教育をめぐる変容から説き起こすことが必要だ。特色入試は、京大が1990年代以降、高校教育と大学教育について二つの改善点を模索してきた作業が結実したものだと山極総長は説明する。一つ目は、高校教育と大学教育がうまく接続しなくなったことだ。そもそも、国立大学は一貫して5教科7科目の筆記試験を課すことで、総合的な能力を有する学生を受け入れてきた。しかし、1980年代あたりから高校教育で個性重視が称揚されるようになり、教育の弾力化や多様化が進行した。同時に、偏差値重視の大学入試が大学を序列化し、受験生が「入りたい大学」でなく「入れる大学」を選ぶようにもなった。こうした結果、高校教育に偏りが生じるとともに、高等学校間で評価の基準が異なり、高等学校が出す成績や単位認定の判定が困難になったと山極総長は語る。これは、高大接続の繋ぎ目に綻びが生じたことを意味する。近年、京大が高校生向けの科学講座として、「グローバルサイエンスキャンパス 科学体系と創造性がクロスする知的卓越人材育成プログラム(ELCASエルキャス)」を進めてきたのは、こうした高大接続を強化するためだ。高校生がリクルート カレッジマネジメント197 / Mar. - Apr. 2016高大接続型「特色入試」で基礎学力と学ぶ意欲を備えた学生を選抜京都大学C A S E1高大接続への課題感から生まれた「特色入試」

元のページ 

10秒後に元のページに移動します

page 34

※このページを正しく表示するにはFlashPlayer10.2以上が必要です