カレッジマネジメント197号
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37ない。しかし、志願者が自筆で真摯に向き合って書いた「学びの設計書」が持つ意義を、各学部は評価していたと有賀副学長は語る。豊かな経験を重ね、将来に対する目的意識もしっかり備えた志願者が多く、一般の学力試験では測定できない「意欲」を直接見ることができたという。さらに、今までと異なる地域・高校の志願者が出願してきたことも注目されると有賀副学長は指摘する。その意味では、京大が発したメッセージがある程度受験生に伝わったと判断してもいいだろう。ただ、特色入試はまだスタートを切ったばかりだ。初年度の取り組みを振り返りつつ、次年度以降の改善につなげていく必要があると山極総長は述べる。もとより、今年度の出願状況は必ずしも期待した通りのものではなかった。志願倍率は、文系学部では後期日程である法学部を除けば平均3〜4倍、理系学部(学科)では倍率の高かった理学部(11.8倍)や農学部(6.7倍)を除いて、総じて低調なレベルにとどまり、定員割れした学部学科もあった(図表3)。その背景には、高校在学中の顕著な活動歴の例として挙げられた「数学オリンピックや国際科学オリンピック出場」が注目され、特色入試はハードルが高いというイメージが先行してしまったこともあるという。そうした経験はもちろん特筆に値するが、あくまでひとつの事例に過ぎない。むしろ、学ぶ意欲を見せてもらえるような募集や試験の方法を模索していきたいと有賀副学長は述べる。さらに今年度の特色入試では、意欲のある学生をどうやったら獲得できるか、特に理系学部が試行錯誤をしながら進めたところがあったという。まずはスモールスタート、今後うまく進んでいけば入口は必ず広がっていくはずだと有賀副学長は期待を込める。他方で、京大にとって今後の焦点は、特色入試で入学してきた学生達の成長をいかに保証するかだ。特色入試で入学した学生の意欲や夢が入学後にどう変遷し実現されていくのか、彼ら・彼女らの活躍が楽しみだと山極総長は言う。それを支援するためにも、京都で過ごす4年間の間に能力を試し伸ばすことのできる多様な機会を提供したいと山極総長は考えている。例えば、京都全体をキャンパスに見立てた「京都大学キャンパス計画」だ。京都市や京都府にも呼びかけながら、学生が利用できる施設や参加できる試みを増やしていきたい、そして学生には京都という地で学べることの良さや可能性を追求していってほしいと語る。その意味で、特色入試を通して発信しようとしているメッセージは、何も日本の高校生だけに限るのではなく、世界の優秀な高校生にも届けたいという。さらに、18歳だけでなく社会人にも届けたいと山極総長は言う。始まったばかりの特色入試。それが射程に収めるのは、世界も視野に入れた京都大学の教育戦略だと言っていいのかもしれない。リクルート カレッジマネジメント197 / Mar. - Apr. 2016(杉本和弘 東北大学高度教養教育・学生支援機構 教授)特集 相互選択型の入学者選抜へ図表3 「特色入試」出願・選考状況(2016年度)2016年2月10日時点学部・学科・専攻募集人員志願者数倍率第1次選考合格者数第2次選考合格者数最終選考合格者数総合人間学部5295.829-5文学部10404.09-7教育学部6254.21275法学部※2032416.2経済学部25773.161-25理学部55911.85955医学部医学科551.05-1人間健康科学科看護学専攻10131.313101理学療法学専攻372.3742作業療法学専攻320.7222薬学部薬科学科320.7220工学部地球工学科300000電気電子工学科5122.4--3情報学科210.5111工業化学科若干0-0-0農学部食料・環境経済学科3206.710-3初年度の課題と今後の見通し※2月10日時点では、法学部(後期日程)の選考・合格発表は未発表

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