カレッジマネジメント197号
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44科間での定員の配分や実際の入試方法等の決定については、各学部の判断を尊重している。そのため、推薦・AO等の入試区分や選考方法は、学部により多様になっている。また募集定員については、既に地域枠が設けられていた医学部を除けば、各学部5名から7名の間で設定されている(図表2)。地域貢献人材育成入試を導入するに至った背景には、既存の入試のあり方に対する疑問が存在した。服部学長は、「理想としては、学力も意欲も両方が揃った生徒に入学してもらいたいが、現実にはそれは非常に困難」と前置きをしつつ、「従来の入試はペーパーテストに偏りすぎていた」と述べる。それゆえ、①入学後に学生の学修意欲が高まらず伸び悩む、②似たようなタイプの学生が入学し均質的な集団が形成されてしまう、といった状況があったという。前述のように、地域で生じ続ける新たな課題に対峙し、それらを解決するたくましい人材を育成するためには、異なるタイプの学生が協働しつつ学んでいくという経験が必要である。つまり、募集定員としては必ずしも多くないものの、「地域への想い」を持った学生を地域貢献人材育成入試によって一定数確保することには、他の学生に対して刺激を与え、上記の人材像に沿った、課題解決能力を持つ人材を育てようという意図があったのだ。なお、島根大学としても地域貢献人材育成入試を計画した時点において、どのような影響が生じるのかに関する明確な見通しを持っていたわけではない。異なるタイプの学生がどのような化学反応を起こすのかについても、もちろん予測がつくはずもない。さらには、限られた募集定員とはいえ、18歳人口が減少している島根、鳥取という地理的な要素を踏まえれば、新たな入試において一定の選抜機能が働くかどうかも定かではない。しかし、地域の課題に向き合おうとするならば、こうしたリスクをあえて引き受けつつ、大学としても挑戦(challenge)をしなければならない。このような覚悟のもとに新たな入試は開始されたという。以上を踏まえれば、島根大学における地域貢献人材育成入試は、入口に関する小手先の改革ではなく、地域に対する問題意識に根ざした取り組みだと言える。さらに、育成する人材像やCOC人材育成コースという教育プログラムとの一貫性を備えた設計がなされている点も、注目すべき特徴であろう。面談会で生徒の問題意識と大学の学びを丁寧に接続、主体的な進路意識を育成とはいえ、「地域に対する想い」を測ることは簡単ではない。また、「想い」を大切にするからこそ、大学で学べること、学べないことを生徒に対してきちんと伝える必要がある。このような理由から、入学者選抜の前段階で、高校生や高校教員との接点をこれまで以上に持つ必要があった。そこで実施されたのが、地域貢献人材育成入試面談会だ。面談会は、生徒と大学の教職員との対話を通じて、①生徒自身の問題意識を明確化し、②島根大学で学べることを生徒に理解してもらうこと、を目的としている。志願する学部が決定して初めて、入試ガイダンスへ進む。あくまでも生徒の学習意欲と大学で学ぶことの接続を目的としていたため、面談の過程において志望する学部や学科が変わったり、さらには、生徒の問題意識と島根大学で学べることが食い違う場合には他大学の受験を勧めるケースもあったという。面談会は、6月から9月にかけて島根県・鳥取県の各地で合計15回実施され、延べ124人の生徒が参加した。結果として、学部によって多少異なるものの、高い学部では7割程度とかなりの比率の参加者が出願に至っている。ちなみに、面談会への参加者は、山間部の高校の生徒がやや多いという印象があるという。背景としては、高校において地域課題学習をしっかりとやっていることが考えられる。リクルート カレッジマネジメント197 / Mar. - Apr. 2016学部学科・課程等入試区分募集人員志願者数法文学部社会文化学科AO入試Ⅱ59教育学部学校教育課程Ⅰ類AO入試Ⅱ(地域枠)747医学部医学科前期日程(県内定着枠)7136推薦入試Ⅱ(地域枠)1017推薦入試Ⅱ(緊急医師確保対策枠)517学士入学(地域枠)310看護学科推薦入試Ⅱ(地域枠)510総合理工学部推薦入試Ⅰ(地域枠)610生物資源科学部AO入試Ⅰ(地域枠)617計54273図表2 地域貢献人材育成入試 実施状況(2016年度入試)

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