カレッジマネジメント197号
55/72
55リクルート カレッジマネジメント197 / Mar. - Apr. 2016トし寝不足で集中できる状態でなかったから。教員-能力面:当該項目を勉強不足の学生のために議論前提知識を再確認する配慮を怠ったため学生が授業に付いて来られなかった。教員-志向面:平素からグループワーク中に教員が私事をするので学生がまじめに取り組むだけ無駄だと思ったから。組織-能力面:カリキュラムにグループ討論するような科目はあまりなく、ここで頑張っても今後につながらないと考えて上の空になった。上記では5つの構造要因の観点について各1つずつ分析を加えたが、現実には1つの要因について複数の分析が可能なこともあるし、10もの構造分析が同時に進行して相互に関わりあうことも可能性として考えられる。以上のことから、ひとつの原因を掘り下げる原因分析アプローチより、この構造分析のほうが物事を多面的に見ていることが分かるし、こちらのほうが問題に的確に対処できそうに思われるだろう。失敗原因はこのように複合的に成り立っていることが実は多いのである。多様な教育環境への配慮が必要これまで教室での授業といえば教壇上にいる教員が中心になり、その独演会で授業が進行し、座席から授業を聴く学生を半ば無視して進むこともあったが、今や時代は変わりつつある。多様な教育環境への配慮が必要になってきている。ALを実施するうえで考慮に入れるべき教育環境について示したものが、図表2である。本図は、4つの領域と3つの階層から成っていて、立体的かつ複層的な特徴を備えている。本稿ではこのうち、例として「関係者(領域)」に焦点を絞って説明する。図の中心に位置する「教員」にとって最も身近な「クラス(階層)」での関係者はもちろん学生であるが、次の「学内環境(階層)」では職員・TA(Teaching Assistant学生手伝い)・教員仲間との関わり、そして最後の「マクロ環境(階層)」では地域社会・学外協力者とのつながりが生まれることになる。この図は構造分析を進めるための背景的な情報として活用できる。先の構造分析で用いた「上の空な学生」の事例でこのことを説明しよう。基底階層として、「個の学生への注目(individual attention)」をして、良好な信頼関係と適度な緊張関係を構築すること。学内階層として考えれば、TAの導入による解決を検討できるし、事務職員との別件の手続き上のトラブルや、他の教員の授業のことでの悩み等についても分析が可能になる。以上のように構造分析で「学生/教員/組織」を考える際に付随的に検討すべき項目のリストとしてこの図を活用することができるだろう。本稿の冒頭で述べた問題意識に立ち返り、アクティブラーニングの実施が、個人教員への依存から組織体としての推進に移行していく中で、関わりを持つステイクホルダー(stakeholder利害関係者)が学生を超えて広がりその影響力が増してくる。今後は、多くの教育環境の諸要素に配慮した教育をこれまで以上に求められるようになるだろう。以上、本稿で述べてきたAL失敗の基本三事例、構造分析、教育環境等の主要な概念についての詳細は、近刊の拙著『失敗事例から学ぶアクティブラーニング』(東信堂 2016年3月刊溝上慎一監修「大学・高校アクティブラーニング」シリーズの第7巻)にさらに詳しく紹介しているのでぜひ参考にして頂きたい。図表2 アクティブラーニングの教育環境政治 法制 教育理念 学位方針 信念 科目 目的 職員 TA 地域 社会 学外 協力者 教員 仲間 学生 教育 制度 所管 官庁 など 理事会 評議会 他の 研究機関 教室 環境 評価 指導 学長・学部長の リーダーシップ 入手可能な教育技術 (アクティブラーニングの技法等) FD・SD 研修会 経済 社会・文化 価値観 教員 教育技術 教育体制 関係者 〈マクロ環境〉 〈学内環境〉 〈クラス〉 亀倉正彦『失敗事例から学ぶアクティブラーニング』東信堂 2016年3月刊、第1章第3節
元のページ