カレッジマネジメント198号
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12リクルート カレッジマネジメント198 / May - Jun. 2016設置し、生徒自ら設定する人間探究から自然探究にわたる多様なテーマの探究活動を軸に、学校全体の学びを質的に転換した経緯や成果が克明に綴られている。この堀川高校の探究活動のレベルを飛躍的に上げる一助となったのが、2002年にスタートしたスーパーサイエンスハイスクール。指定された高校に対して文部科学省が手厚い支援を行い、大学や研究機関と連携しながら、高校という枠組みを超えた特色ある質の高い科学探究を展開しているスーパーサイエンスハイスクールはこの15年で236校を超えた。科学の甲子園や数学・科学オリンピックで活躍する生徒はもちろんのこと、卒業生たち(第1期生は既に30歳に達している)は国内外の大学や研究機関において研究者として勤務していたり、日本学術振興会の「育志賞」受賞といった卓越した業績をあげたりしている。眼差しを高校時代から海外の大学や同世代の若者たちに向けた動きも始まっている。2014年から指定が始まったスーパーグローバルハイスクールは、現在112校に及んでおり、海外の大学や高校と連携した課題研究などが行われている。そのテーマは「イノベーション」「起業」「国内外の農業問題」などと多彩だ。教育課程を国際的な枠組みを活用して再編成しようとする動きも盛んになっている。2015年から日本語でも教育が可能となった国際バカロレアのディプロマ・プログラムは、東京都立国際高校や玉川学園高等部、沖縄尚学高校等、13の高校が認定されている。他方、義務教育の内容の習得が必ずしも十分ではない高校生に対して、基礎から徹底して指導し、着実に学力を定着させている高校の取り組みも見逃してはならない。千葉県立姉崎高校は、義務教育段階も含めた基礎学力の定着と向上を図るため、学校設定科目「マルチベーシック」を導入し、ステップ方式の教材と学力診断カルテの活用により、生徒の達成感の向上や希望進路の実現など大きな実績を上げた(白鳥秀幸同校元校長『「学び直し」が学校を変える!』(日本標準ブックレット2015年12月発行)参照)。東京都の「エンカレッジスクール」等、義務教育の学び直しをしっかり行うことにより、生徒の資質・能力を引き出し、可能性を広げようとする取り組みは確実に広がっている。教育の質的転換を全国で広げるためにこれらの高校に共通しているのは、①大学入試など当座の目標のために必要な学力のみに焦点を当てるのではなく、目の前の生徒の実態を踏まえ、この子ども達が社会で知識を活かして働かせながら次代を担うために必要な資質・能力とは何かを明確にしていること、②このような資質・能力を育むために、各教科等の学びが「何のためか」を明らかにしつつ、学校種や教科の縦割りを超えた体系的な教育課程のもとで学校がチームとして組織的に機能していること、である。このような質的転換を職人芸、個人芸やエピソードで終わらせるのではなく、全国の高校で行われることが求められている。高校教育・大学入試・大学教育の三位一体改革が必要不可欠となっている所以である(図表1)。「何のため」の学びか資質・能力を育む高校教育そのため、学習指導要領改訂においては、小・中・高校を通じ、各教科を「コンテンツ(知識)の缶詰」にとどめるのではなく、それぞれの教科等の本質に根ざしたものの見方や考え方を活用して「知っていること・できることをどう使い、どのように社会・世界と関わり、よりよい人生を送るか」といった資質・能力を育む構造へと転換することとしている。例えば、国語科では、テクスト・情報の理解から文章や発話による表現という往還の中で求められる思考力・判断力・表現力の要素として、「情報を多角的に吟味し、構造化する力」「論理の吟味・構築(根拠・論拠・定義・前提等)」「言葉によって感じたり想像したりする力」「感情や想像を言葉にする力」「相手の心を想像する力」「新しい問いを立てる等既に持っている考えの構造を転換する力」等を重視した指導を行うことが構想されている。地理歴史科では、世界史や日本史の枠組みを超えて近現代における歴史の転換を学ぶ「歴史総合」(仮称)を共通必履修科目とし、近代化・大衆化・グローバル化といった歴史の転換について、「比較する」「事象を因果関係で捉え
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