カレッジマネジメント198号
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23リクルート カレッジマネジメント198 / May - Jun. 2016(吉田 文 早稲田大学教授)も海外探究研修でも、各種の課題解決的な活動を行うことで、自ら考え行動する訓練が常に組み込まれている。社会の様々な現実に関わるこのような探究は、ある意味、高校生にとってはサバイバルであり、必然的に自分自身で考えねばならない。高校卒業後の世界を見ることは、ドリカムハイスクールのコンセプトである生涯学び続ける意欲を喚起することになろう。生徒、教員、そして地域の変化富士市立高校として出発して5年、卒業生を3回送り出した。さて、この間、課題解決型学習に力を入れることで、学校の何が変わったのだろうか。それについて、眺野指導主事は、「生徒が穏やかになりましたね。誰彼分け隔てなく議論ができるようになりました。それと廊下を歩く後姿、背筋がちゃんと伸びているのです」と語る。やや抽象的な表現ではあるが、学校の日常を知る者にとっては、すんなりと納得できる商業高校時代とは異なる確実な変化なのだろう。志願者は入学者定員を超えるようになった。この学校の教育に魅力を感じて入学する者が増加していることを示す。また、生徒に対するアンケートでも、「総合的な学習の時間は生きていくうえで大切なことを学んでいると思う」、「総合的な学習に一生懸命取り組んでいる」と回答する生徒の比率は、2013年70%台、2014年80%台、2015年90%台と毎年上昇している。これは教員の授業改善の結果でもある。教員も変わったという。開始当初は、こうした課題解決型学習に懐疑的な教員が多く、なかなか賛同を得られない状況が続いた。その中担当者は、週に1回の打ち合せを重ね、地道に継続することで、次第に周囲の理解が得られるようになったそうだ。教員の力量も向上したに違いない。なぜなら、既存の知識習得型の学習と違って、課題解決型学習は正解が1つではない。これは、多様なアイデアを論理のプロセスにのせ、ある結論へ収斂させる方式の学習であり、どのようにして論理のプロセスにのせるか、どのようにして当初は予想されなかった結論に収斂させるかは、まさに教員の力量に掛かかっているからである。地元の高校生を見る目も変化する。地域に出てきた高校生と接することで、高校生といえども意外な力があることを知るようになる。「市役所プラン」の発表会には市役所や町内会役員が駆けつけてくれる。地域の活性化に若い世代が不可欠であるという認識は、着実に深まっている。育成した探究心を、いかに学力や進路に結びつけるか全てのことがうまく運んでいるかのようであるが、やはり課題は残っている。それは、このようにして育成した探究心を、卒業後の進路においてどのように評価してもらうかという課題である。確かに、就職に関しては公務員や地元の信用金庫等へ就職する者が徐々に増え、求人倍率も向上している。大学進学でもAOや推薦入試は比較的好調であり、探究学習を活かした進路指導の効果があがっているようだ。しかしながら、一般入試は、探究心だけでは太刀打ちできず、教科の知識の習得による学力が必要になる。齊藤照安校長(取材当時)は、「学ぶ意識が高まってきたことは明白です。現在、大学入試改革では学ぶ意欲の重要性や課題解決能力の重要性が議論されていますが、わが高校の課題解決型学習はそれに応えられるものと思っており、今後も力を入れていきたいと考えています」と話されつつ、他方で、「そうした力とともに、やはり教科型の学力の獲得が必要です。学ぶ意欲だけでは一般入試はパスできず、そこがわが校の1つのネックにもなっている。探究心と学力との両輪をいかにうまく回していくかが課題です」と語られる。大学入学後に重要なのは、学ぶ意欲とともに、自ら課題を見つけ、自ら解を求める力である。だが、大学の一般入試は、これまで教科の知識の獲得度が合否の基準になってきた。富士市立高校の課題解決型学習は、大学に入学してからの学習には大きな意味を持つが、大学へ入学する時点においてそれだけで有効とは言い切れない。探究学習に対する教員の懐疑的な見方も、ここに由来する。これでは受験を突破できないとして、もっと知識重視の教育を求める教員がいることも当然であろう。高校でのこうした葛藤は、高校の学習をどのように評価するか、それを入学者選抜においてどのように測定するか、さらには大学の授業をどのように行うかといった、大学側に課せられた課題でもある。特集 高大接続改革への「高校の挑戦」

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