カレッジマネジメント198号
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27リクルート カレッジマネジメント198 / May - Jun. 2016(杉本和弘 東北大学高度教養教育・学生支援機構教授)プットすることが求められたが、21世紀社会はそうではない。必要なのは、獲得した知識同士を活用して構造化し、知のネットワークを広げていくことだ。そこに教科の垣根は不要だ。アクティブラーニングで縦横無尽に学んで思考を深めていくためには、教科や文理の枠を超えた幅広い知識、つまり「リベラルアーツ」が求められるというわけだ。しかし、こうした新しい学習スタイルによる学びの成果測定には新しい評価基準が必要になる。そこでかえつ有明では、プロジェクトを立ち上げ、「知のコード」と呼ぶ独自のルーブリックを開発した(図表2)。従来のような記憶した知識の多寡を点数化するのではなく、このルーブリックを使って知識の活用の仕方を評価する。図表2にあるような9マスのマトリクスで構成され、論理・倫理・美学の各観点について、守・破・離の段階ごとに到達すべき学習成果が示されている。「知のコード」は、B・ブルームの教育目標の分類(タキソノミー)やL・コールバーグの「道徳性発達理論」を基盤に作成されたものだ。生徒の思考や社会性の発達プロセスを段階的に把握するための枠組みとして広く適用可能だという。このように、かえつ有明の教育実践は、基礎的スキルの徹底的な習得を踏まえ、多様な知識に基づくアクティブラーニングへとつながる形で構造化され、さらに、その成果を評価するルーブリックの開発が進められてきた。ここには、21世紀における学校教育の新たな可能性を探った1つの結果を見ることができる。ただ、かえつ有明の挑戦はそれだけにとどまらない。21世紀型学習を促す授業実践は新たな入試の導入に結実している。その一つは、5年前に導入した「思考力入試」だ。「サイエンス科」で展開される学習を入試に応用したものだ。ファクト・オピニオン、コンペア・コントラストといった思考するためのスキルを盛り込んだテストで、知識の詰め込みだけでは対応は難しい。まさにクリティカルシンキングが問われるテストだ。かえつ有明の挑戦はさらに続く。2016年度入試から「難関思考力テスト」と呼ばれるアクティブラーニング型思考力入試を導入した。与えられた課題に対して、グループで議論や対話を通して1つの解を導き出す入試だという。個人単位での知識の習熟度を問う試験ではない。グループワークと個人の作業を組み合わせながら、より良い解答を目指していく試験だ。正解は1つではない。重要なのは、メンバーの力を借りながら自分なりの思考を展開し、自分らしい表現に結び付けていけるかどうかだ。評価は、そのプロセスを周囲で教員が観察しながら前出の「知のコード」を用いて行うのだという。受験生は「論理」「倫理」「美学」の観点から力があるかどうかが評価される。もちろん、評価は1点刻みではない。かといって、落とすためだけの試験というわけでもない。むしろ子ども達の可能性を見ていこうとする試験だという。それにしても、今回かえつ有明の事例を通して見てきたように、中高レベルの教育や入試が一部で変わり始めていることは、大学にとって無視できないインパクトを持つに違いない。既に、「正解が1つで・ない」あるいは「正解が1つも・ない」世界を生き抜く力の必要性を前提に学んだ学生達が、遠くない将来大学に入学してくるからだ。そんな大学に対し、前嶋教頭は「大学は大学らしくあってほしい」と語る。大学には教養も深い専門もある。その本筋にしっかり取り組むことが、こうした教育を受けてきた学生達をさらに開花させることになる。骨のある人材を育成する大学であってほしいと期待する。高等教育としての大学教育はこうあるべきだという本質論が、もっと語られるべきだという。確かに、答えのない課題を常に研究し教育してきたのが大学だ。大学が学問を真摯に追究する姿勢を崩さないことこそ、21世紀の学びに貢献できる最も近道なのかもしれない。思考力を問う入試の導入図表2 かえつ有明「知のコード」特集 高大接続改革への「高校の挑戦」

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