カレッジマネジメント198号
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54が、コミュニケーションをもっと取っていこうという取組みを始めました。そうして協力をすれば、全学をあげたキャリア支援になるので。キャリアアドバイザーは企業での経験や人脈があったり、企業を訪問したりと、企業との接点での情報が蓄積されていますので、それらの情報を学群にフィードバックすることによって、カリキュラム自体で配慮すべきところが見えてくるかもしれないとも考えています」(掛川キャリア開発センター長)人は「学風」で育つ今後の方向性について三谷学長に尋ねたところ、まず返ってきたのは、日本社会への憂慮だった。「この頃よく思うのですが、日本はかなり劣化してきたのではないか。企業のコンプライアンス、政治家のスキャンダル、芸能人の不祥事、非常にレベルの低い話が増えている」。また、選挙権年齢が18歳に引き下げられ、今年から新入生も含め全学生が選挙権を持つことになった。これらを考えたとき、「一人前の大人としてあるべき姿、社会人として守るべきこと等を含めた教育が、ますます大学の中に入ってくるのではないか」と三谷学長は言う。「もうひとつ、本来、大学などで高等教育を受けた人が社会に増えることで、世の中はより良くなっていくはずだと思うのです。しかし実際はそうはなっていない。ですから、今後の方向性として大きくは、例えば本学のモットーである、『学がく而じ事じ人じん(学びて人に仕える)』を本当に歩んでいく人間を、どう育てていくか。ウェル・ビーイングというのか、人が幸せに生きていける世の中を作っていける人材を生み出していくというのが、大学のひとつの大きな責任ではないかと思います」一般的に言えば「人間力をつくる」となるだろうか。しかし三谷学長は、それは「どこの大学でも言っている」ことであり、「人間力というのは非常に味気のない言葉」だと言う。「この頃あまり言われなくなってきましたが、大学生は『学風』で育つものです。それがないがしろにされ、忘れ去られているのも、高等教育の空洞化だと思います」グローバル・コミュニケーション学群の新設今年度開設されたグローバル・コミュニケーション学群も、グローバル人材の育成という現代の普遍的な課題に応えるものであると同時に、桜美林ならではの学風を顕したものだ。「1966年に、桜美林大学は文学部のみで生まれました。大学が文学部で始まる場合、英文と国文が普通のパターンなのですが、桜美林大学は英語・英米文学科と、中国語・中国文学科の2つで始まった。創立者の清水安三は、これからの世界で活躍する人間が身につけるべきは、語学力でありコミュニケーション能力だと、それがなかったために日本はとんでもないことをやってしまったと。そういう考えを持っていました。それで、当時でいえば国際人、今の流行の言葉ではグローバル人材を、育てようとした」(三谷学長)それから50年を経て開設されたグローバル・コミュニケーション学群は、中国語、英語、日本語(海外からの留学生向け)の3つの言語で学び、英語だけでも学位が取れる。英語・中国語特別専修では、それぞれの語学の基礎力をつけ、留学させ、それ以降の授業は英語・中国語で行う。その授業には留学生も合流できる。日本語特別専修は、留学生が日本のことを日本語で勉強するコースだ。「まさに本学の創立時に、英文科と中文科として具現化したものだと思う。伝統のリバイタリゼーションが始まったということです」(三谷学長)新学群開設は50周年記念事業の一環でもあるが、三谷学長は、「50年って大学の歴史の中ではそんなに長くないのですよね」とも言う。世界の大学の原点といわれるボローニャ大学が1100年頃に創立、英国オックスフォード大学の歴史は700年とも800年ともいわれ、米国でもハーバード大学は400年近い歴史を持つ。「大学は、そういった長い歴史の中で、卒業生が活躍し、次第に成果が蓄積されていくもの。だから、10年20年じゃなくて、100年200年で真価を表していくことを目指したい。今、この時期、生き延びていかなきゃならないという問題を抱えながらも、100年単位の将来について、視点を持っていなければならないと思うのです」リクルート カレッジマネジメント198 / May - Jun. 2016(角方正幸 リアセックキャリア総合研究所 所長)

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