カレッジマネジメント198号
62/66
通用する次世代の人材を、急かさずに育てることはできないか。それこそが「ワールドクラスへの飛躍」には必要なのではないか。そもそもの課題意識はそこにあった。プロジェクトの流れはこうだ。まず広く世界に公募した研究プログラムを、国際アドバイザリーボードと呼ばれる専門家が選定。その上で、若手研究者を中心としたコーディネーターが約1年かけて内容を吟味し、練り上げたテーマプログラムについて、オーガナイザーが世界第一線級の研究者を招聘し、3カ月にわたりフォーラムとして開催する。長期滞在中、研究者達は研究活動や発表の傍ら、学部生・院生・若手研究者や、時には地域住民や地元中高生と交流する。「一流の人材に触れ、憧れを持つことで、若手の学問へのモチベーションを醸成したい」と伊藤センター長が語るように、優れた研究者と出会うことによる若手の意識面の変化は大きいようだ。専門内外や国内外を問わず、研究者同士のネットワーク形成にも役立っているという。「知の館」は、1階はオープンスペース、2階はラウンジと滞在用施設、個人用研究室、3階には講義室という3層構成だ。全体的にシックで落ち着いた色調で、国際無線LANローミング基盤eduroam等のIT環境も整っている。至る所に足元から天井近くまでの黒板が配置され、まさに「知が行き交う」ように、偶発的に議論が展開されるよう工夫がなされているのも特徴的だ。取材で伺った際も、つい先ほどまで熱のこもった議論がなされていたと思われる数式が、びっしりと書きつけてあるのが印象的だった。「様々な領域の研究者が集うので、机上では発生しないような議論になることも多いようです」と前田吉昭副センター長は話す。これらの施設や取り組みは、東京エレクトロン株式会社のCSR事業として全面支援を受けている。企業と大学がここまで深く連携しているプロジェクトも珍しいが、その目的が短期的成果ではなく、長期的な人材育成に置かれているからこそであろう。開設3年目を迎え、テーマプログラム以外のプログラム開発も進んでいる。視座高く次世代を見据えたプロジェクトの、今後の展開に期待したい。(本誌 鹿島 梓)東北大学は1907年、日本で3番目の帝国大学として誕生した。創設時に若手研究者を集め理科大学から発祥したこともあり、「研究第一」「門戸開放」「実学尊重」を伝統とした大学だ。2013年里見 進総長により発表された「里見ビジョン」によると、それらの伝統を踏まえつつ、「人が集い、学び、創造する、世界に開かれた知の共同体」として大学を構築し、「ワールドクラスへの飛躍」「復興・新生の先導」の2つを達成することが2017年までの目標とされている。それを体現する研究プログラムとして考案されたのが年に3回実施されている「知のフォーラム」であり、それを主催するのが「知の創出センター」、その拠点施設が同年開設された滞在型研究施設、「知の館」である。「『知のフォーラム』は、国の研究大学強化促進事業の支援を受けて始まりました」と伊藤貞嘉センター長は話す。学問に携わる者にとって、研究活動とは必ずしも即結果が出るようなものばかりではない。昨今の実学重視はともすれば即時的な効果重視になりがちだが、本来は長期的に幅広く深い視野が必要な領域だ。そういった視点を持ち、国際的に64リクルート カレッジマネジメント198 / May - Jun. 2016外界からは切り離された重厚な雰囲気の2階ラウンジ。©Tohoku Forum for Creativity
元のページ