カレッジマネジメント198号
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業へと進化できる。つまり、セクターを問わず、新しいチャレンジが求められることになる。オートメーション化時代の新しい仕事にせよ、既存産業の再生にせよ、必要とされるのは、現状をより良いものに変えていくことができるイノベーターなのだ。OECD加盟国が共通して抱える5つの課題また、少子高齢化、環境、安全保障といった世界各国が抱える諸問題も、2030年にはより深刻化・複雑化していく。このような“解のない問題”に取り組んでいく力も、これからの社会を担う世代には求められることになる。そこでは、ローカル、ナショナル、グローバルと多様な位相で問題を捉える視点も必要とされるだろう。そして、このような大きな時代の変化を見据え、OECD加盟国は既に教育改革に取り組んでおり、その中で各国に共通する課題も浮き彫りになってきた(図表1)。一つ目は、「カリキュラムオーバーロードの問題」だ。カリキュラムの時間は限られているが、環境が重要だから環境リテラシーの授業を、金融が重要だから金融リテラシーの授業を…と足していくと、学ぶべきことはどんどん増えていく。その結果、カリキュラムがパンク状態になり、教科間で時間の奪い合いが起こっている。同時に、ただひたすら新しいリテラシーを詰め込んでいくだけでは、子ども達が深い学び(ディープラーニング)に辿りつけないのではないかという議論も生まれている。その意味でも、現状のデマンド(需要)に基づいてカリキュラムを考えるのではなく、未来からのデマンドに基づいて、本当に必要な知識やコンピテンシーを見直す必要がある。この「カリキュラムの整理」が二つ目の課題だ。そのためには、知識とコンピテンシーを相乗的に学べるカリキュラムが有効だろうということで、多くの国がその方向にシフトしている。日本でも、2008年に「生きる力」を掲げた。ただし、このようなカリキュラムは、理論上では成立していても、教室で実践するとなると壁がある。この「相乗的なカリキュラムをいかに実践していくか」が三つ目の課題だ。この点で、日本の「総合学習の時間」は世界でも評価が高い。しかし、小中学校では一定の成果が出ている一方、高校では受験対策の影響が大きく、うまくいっていない実情がある。四つ目の課題が「アセスメント(評価)」である。知識とコンピテンシーの相乗効果を図る授業を実践したとして、その成果は従来のテストでは測定が難しい。そこを評価できないと、指導する先生の評価も難しい。先生のモチベーションにも影響する重要な課題の一つだ。さらに五つ目の課題が、「学校の外での学び」。教育を学校だけで完結させず、家庭や地域にまでその範囲を広げていくにはどうしたらいいのかという問題である。2030年に求められる能力をもとに、コンピテンシーを再定義以上のような未来と現状の課題を踏まえ、“Education 2030”は推し進められている。どのような能力が求められるのかについても検討が始まっており、現段階での議論を整理したものが図表2と3である。図表2は、行動(action)に至る、知識や技能、コンピテンシー等の相関関係をマッピングしたもの。中央の軸は、知識(knowledge)が根幹にあり、様々なスキル(skills)、価値観(emotional qualities)等がそれを取り巻いて関わり合っている。これは、知識を養ううえで、スキルや価値観が大きく影響することを意味している。OECDの実証研究でも、知識の獲得が自信につながり、この自信をしっかりと育むことが次の知識の獲得に結びつくことが明らかになっている。例えば、日本の生徒は数学の点数は非常に高いが、自己肯定力は他国に比較して弱い。しかし、一見関係ないように思えるこの自己肯定力を伸ばしていくことで、既に高い数学の点数がさリクルート カレッジマネジメント198 / May - Jun. 2016図表1 OECD加盟国が共通して抱える教育の課題①増える一方のカリキュラムをどう整理するか②必要なカリキュラムをどのように組み立てるか③知識と技能を相乗的に習得させる教育をどう実践するか④新しい教育法に取り組む教員をどう評価するか⑤教室以外での学びの機会をどう広げていくか特集 高大接続改革への「高校の挑戦」

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