カレッジマネジメント199号
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33リクルート カレッジマネジメント199 / Jul. - Aug. 2016(吉田 文 早稲田大学教授)インターンシップを増加させて、雇用創出や就職率向上を図っている。信州大学では、表1に見るように県内就職率を2014年度の40.4%から2019年度に45.4%に、インターンシップ参加者数は201人から450人に倍増させることを目標としている。地域との密接な連携は、理工系分野の研究においても進んでいる。繊維学部のある上田キャンパスにおいては、国際ファイバー工学研究所を設置し、ナノファイバーの開発に世界の繊維系大学との連携のもとに取り組んでおり、その評価は高い。繊維学部の前身の旧制専門学校は、当時の地場産業であった繊維産業発展のために設立されたが、その伝統は、今やファイバー工学としてグローバル展開するに至っている。医工連携の代表的なプロジェクトは、curaraというロボティックウェアの開発であった。2010年に零号機が送り出されてからも、改良が加えられ、現在の3.5号機では、上肢、下肢、制御装置をいれても10kgにまで軽量化することができた。curaraは、5号機を最終目標として、さらなる軽量化や装着の違和感の低下などにより2020年の実用化を目指している。その延長にあるのが、歩行アシスト・サイボーグ・プロジェクトである。これはcuraraが装着ロボットであるがために装着していないときの身体的不自由という問題を、体内埋め込み型の歩行アシストサイボーグ技術を開発することで、常時の歩行を可能とすることを目指している。これは、バイオメディカル研究所、カーボン科学研究所、環境・エネルギー材料科学研究所に、先述の国際ファイバー工学研究所が加わった4研究所の共同で実施されており、5年先にはプロトタイプの作成という目標を置いている。興味深いのは、これらの研究はいずれも世界最先端の研究だが、それを支えるのは、県内の地場企業である点だ。長野県には、日本有数の精密機械工場や薬品企業が多くあり、グローバルで展開される最先端の産学連携それらとの連携は形態としては地域ローカル連携でありながら、実質的にはグローバルな研究を進める大きな下支えとなっている。これら4研究領域に山岳科学を加えた5つを「先鋭領域融合研究群」と称し、世界的教育研究を推進するべく特色に磨きをかけている。信州大学の研究力と県内産業の技術力の高さは、軽々と地域や国境という境界を越えていく。日本経済新聞社が毎年実施している全国の国公私立大学を対象とした「全国大学の地域貢献度調査」において、信州大学は2012年から2015年まで連続総合1位を占めている。それを可能にしているのは、信州大学のそれぞれのキャンパスが、それぞれの立地する地域との互恵関係を結び、さらには研究面でグローバルを目指しているからだろう。マルチキャンパスのメリットがここに生きている。それに甘んじることなく、次に見据えるのは人文社会系の領域での産学連携の拡大である。もちろん人文社会系の産学連携が行われてこなかったわけではないが、理工系のそれと比較すると、そこで移動する金額、物としての形といった点において見えにくかったことは確かである。「大学の知識は無料」といった風潮も、人文社会系の産学連携を後景に押しやってきた。それを明示化していくことは課題である。それだけでなく、濱田学長は、「地域課題を大学の教育や研究の成果を用いて解決しようとする場合、学問分野の文系・理系といった区別は関係なくなります。それは次世代の研究を進めるにあたっても同様です。今後は、研究型の企業をさらに誘致し、地域課題の解決とともに、それにとどまらないグローバルな課題の解決に力を尽くしたいと考えています」と、野心を語られる。地域連携というと大学の立地する地域の問題解決に限定されるきらいがあるが、地域に根差すことで、いくらでもグローバルな展開が可能であることを、信州大学の事例は教えてくれる。確かに、地域・国境という境界線を引いているのは便宜でしかなく、大学の知はそれとは無関係な広がりをもってこそ、役立つものとなるのである。文理融合の地域課題解決へ目標値2014年度2015年度2016年度2017年度2018年度2019年度就職率(%)40.441.042.343.845.045.4インターンシップ参加者人数201210250320400450表1 県内の就職率とインターンシップ参加者数目標特集:地学地就の教育

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