カレッジマネジメント199号
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37リクルート カレッジマネジメント199 / Jul. - Aug. 2016(鹿島 梓 カレッジマネジメント編集部)てきた取り組みを維持向上させるため、学長直轄の「クマガク元気プロジェクト」としてシリーズ化し、重点支援していく予定だという。熊本学園大学には、地域に根差した特徴的な研究機関がある。それが2005年に設置された水俣学研究センターだ。2009年度まで文部科学省オープン・リサーチ・センター整備事業に、2010・2015年度には私立大学戦略的研究基盤形成支援事業に採択されている。開設以来、かつての四大公害病を現代的・国際的視野を持って捉えなおし、地域に根差した研究調査活動と連携活動を行っている。既に海外からは13カ国14地域の公害発生地域住民や研究者が国際フォーラムに訪れたほか、多くの研究者や市民団体の査察や研修を受け入れてきた。特にこうした公害問題は、経済発展著しいアジア・インド・アフリカ地域が直面しつつある、地球規模の環境問題である。水俣学研究センターの存在は、公害から目を背けるのではなく、未来に活かすために過去に向き合うという覚悟の表れでもある。近年では研究内容を双方向型のオンライン授業で配信しているほか、学部生が受講することのできる「水俣学」という科目も設置している。こうした問題は発生した地域でなければ学ぶことのできないことが多い。だからこそ、世界的にも著名な研究たり得るのである。地域と世界は二者択一で語られることが多いが、ローカルに根を張ってこそ、世界でも引けを取らない研究を磨くことになるのだ。一方で昨今は九州にも商経系の学問領域を持つ大学が大幅に増え、競争が激化している。今後については、「やはり私立大学ですから、建学の精神こそ根幹です。今後はそこに軸を置いた差別化を強化してきたい」と幸田学長。即ち「師弟同行」「自由闊達」「全学一家」の精神である。特に「師弟同行」に表されるのは、教師と学生が教育実践を通して、共に学び合う姿勢である。大前提として、お互いの顔が見え、コミュニケーションが成立していなければ、その境地に達するべくもない。前述した、目的意識を世界に誇る研究資産「水俣学研究センター」熊本を支える私大から九州で存在感ある私大へ持つ学生向けの学科では成功していると言えるこの教育理念も、特に商経系に多いマスプロ型授業においては、仕組み作りは道半ばといったところであるという。少人数単位のゼミが始まる3年次を見据え、どのように教員と学生の信頼関係を築いていくかは、熊本学園だけではなく、日本の社会科学系私大において、大きな課題であろう。熊本学園大学は今年4月から中期経営計画をスタートし、①グローカルに活躍できる中核人材の育成、②九州で存在感のある私学、の2点に軸をおいた達成指標を定めていくという。具体的には、学生確保、就職の質・量の向上、退学率の減少等のマイルストーンを策定予定だ。学科ごとの教育目標に沿った地域連携体制を整備し、地域に有用な人材の育成輩出に努めると同時に、九州を代表する文系研究拠点としての地位を確保し、その成果を積み上げていきたいという。また、訪日観光客が数多く訪れる熊本に立地していることを活かし、これまでのように地域の人材を地域に帰す循環のほかに、留学生を獲得し地域に帰す循環を作ることにも挑戦したいという。「今後の課題は山積みだが、『全学一家』で取り組んでいきたい」と、学長の表情は明るい。過去からの確かな実績の上に、次の目標を設定し、学生と教職員が一体となって取り組んでいくという姿勢は、明るく風通しの良い校風と、利害関係者達からの確かな信頼が存在することの象徴のように思われた。なお、偶然ではあるが取材当日の夜、熊本を未曾有の大地震が襲い、大学も少なからず被害を受けた。この原稿の執筆中にも、指定避難所ではないはずの熊本学園大学が、「災害弱者」と言われる高齢者やしょうがい者を受け入れ、自主的に避難所を運営しているニュースが飛び込んできた。大学の福祉の学びを、地域の難局打破のために積極的に活かす、自発的な取り組みだという。また、先述した地域中核人材育成プログラムの一期生は、震災後キャンパスで行われたボランティア活動に積極的に取り組む姿勢が際立っていたという。まさにこうした姿勢こそ、日頃地域に臨み当事者意識が育まれている証拠ともいえるのではないか。熊本学園大学をはじめとする被災された皆様に、この場を借りて心よりお見舞い申し上げたい。特集:地学地就の教育
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