カレッジマネジメント199号
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61年から2020年の実用化を目指し、AIを搭載した自動運転車を開発中である。フェイスブックも最先端の研究を進める大学教授を招聘して人工知能研究所を設置し、IBMもワトソンの本格的な事業展開に向けて、用途開発と普及に力を入れている。ドイツは、AI、ロボット、IoT(Internet of Things=モノのインターネット)を活用して生産や流通などの革新を目指す「インダストリー4.0」を産官学連携の国家プロジェクトに位置付け、取り組みを展開している。その象徴が、AIを用いたサイバー・フィジカル・システム(CPS:Cyber Physical System)を基盤とする「スマート工場」であり、大量生産と変わらないコストでオーダーメイドの商品を作る「マスカスタマイゼーション(個別大量生産)」を目指している。我が国においても、『日本再興戦略2016』において、新たな有望成長市場創出の柱に「第4次産業革命の実現〜IoT・ビッグデータ・AI・ロボット〜」が掲げられた。その中では、「技術や産業の変革に合わせて、人材育成や労働市場、働き方を積極的に変革していかなければ、雇用機会は失われ、雇用所得は減少し、中間層が崩壊して二極化が極端に進んでしまう」との見方が示されており、イノベーション・ベンチャー創出力の強化、人材力の強化、働き方改革・雇用制度改革、多様な働き手の参画などに係る施策があげられている。大学においても、これらの動きが高等教育政策にどう結びつくのか注視するとともに、AIの進化とそれによってもたらされる社会の変化に対する感度を一段と高めておく必要がある。そもそもAIとは何か。松尾豊東京大学准教授は、AIの定義は専門家の間でも定まっていないとした上で、「人工的につくられた人間のような知能、ないしはそれをつくる技術」と定義する。AI研究にはこれまで2度のブームがあり、現在は第3次AIブームに当たる。「AI(人工知能)」という用語が最初に使われたのはディープラーニングがAIの急速な進化を支える1956年、米国の大学におけるワークショップであり、それが第1次ブームの始まりとなり、1960年代まで続く。「推論・探索」により特定の問題を解く研究が中心で、パズルや簡単なゲームが解けたが、実用性には乏しかったという。第2次ブームは1980年代であり、コンピュータに専門家の「知識」を教え込むことで問題解決させる「エキスパートシステム」と呼ばれる実用的なシステムがつくられた。ただ、このシステムは、知識を教え込むことが想定した以上に難しく、活用範囲も限られていた。現在は第3次ブームにあるが、それが本格的なものになってきた背景として3つの技術的要因があげられている。その一つは、年間1兆個ともいわれる多様なセンサーが生産され、IoTが発達することで膨大なデータ(「ビッグデータ」)が取得できるようになったこと。二つめは、コンピュータの計算能力が飛躍的に高まったこと。三つめは、「ディープラーニング(深層学習)」の登場である。ディープラーニングは、人間の脳神経回路を模した「ニューラルネットワーク」を何層にも重ねることで、コンピュータが自ら大量のデータに潜む関係性や特徴量を見つけて、その結果に基づいて判断し行動する技術である。前述の「アルファ碁」を例にとると、膨大な数の対局の盤面を画像として与えられたコンピュータが、勝ちにつながる展開に共通して現れる石の並び方を自ら見つけ出し、次の一手の選択肢を絞り込み、展開を予測しながら打ち手を決めていく。人間が経験の積み重ねを通して直感を磨くプロセスに倣ったものである。指数関数的ともいえるAIの急速な進化は、生産、流通、交通・運輸、エネルギー、サービス、金融、医療・健康・介護等、社会の広範な分野に大きな影響を及ぼしつつある。これまで困難とされてきた問題の解決や新たな価値の創出に対する期待が高まる。その一方で、進化の速さへの戸惑いやAIがもたらす負雇用の喪失と格差の拡大に対する根深い危機感リクルート カレッジマネジメント199 / Jul. - Aug. 2016

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