カレッジマネジメント199号
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6リクルート カレッジマネジメント199 / Jul. - Aug. 2016まず、現在の大学進学タイミングにおける人の流動について見ておきたい(図表1)。2015年度学校基本調査によると、大学進学者における地元残留率の全国平均は43.6%であり、約2人に1人以上が進学のタイミングで他県に流出していることになる。特に残留率が低いのは、1位和歌山県(10.4%)、2位佐賀県(13.8%)、3位島根県(14.4%)、4位奈良県(14.7%)、5位鳥取県(14.9%)。人口が少ないことに加え、Ⅱで述べる学科の分布においても空白となっている割合が高いエリアである。逆に残留率が高いのは、1位愛知県(72.0%)、2位北海道(68.3%)、3位東京都(65.4%)、4位福岡県(63.7%)、5位宮城県(57.3%)と、大都会を擁し人口の多いエリアである。残留率が全国平均値43.6%以上の都道府県は11、平均値以下の県は36であるが、中央値をとると28.7%となる。平均値付近に多く分布するわけではなく、地元に留まる残留県と、他県への流出県が二極化している様子が見てとれる。 続いて、残留率と大学進学率の関係性を見ておきたい。図表2では、縦軸に地元残留率を、横軸に大学進学率をとり、都道府県の分布を示した。地元残留率の全国平均43.6%と大学進学率(現役)の全国平均48.9%で線を引くと、4象限に分けることができる。まず残留率も進学率も高い右上の象限Aに属するのは、東京・京都・兵庫・広島・愛知・大阪という6つの都市群である。人口が多く、大学も多く所在し、かつ大規模総合大学も多いため、地域に包括される学問領域が幅広く、卒業後の受け皿となる就職先企業も多く存在することもあり、特別な理由がなければ「出ていく理由がない」とも言えるゾーンだ。残留率が低く進学率が高い右下の象限Bに属するのは、神奈川、奈良、埼玉、千葉、山梨、静岡という、都市部に隣接するエリアである。大学に進学する人が相対的に多いが、地元の大学よりも隣接都市の大学を選びやすい状況にあることがわかる。人口も多く都市圏として括られがちだが、流出傾向の強いエリアだ。残留率が高く進学率が低い左上の象限Cに属するのは、福岡・宮城・熊本・北海道・沖縄である。地域の中核都市や観光都市が並ぶ。学校数が多く所在する一方、大学進学が多い都市部に比べると、地元産業とのつながりや経済面等地域の大学マーケットを考える──地域における未開拓分野を探る国の地方創生政策を背景に、大学と地域に関わる議論が活発になっている。国公私の別を問わず、地域活性の核として大学の役割を定義し、機能を強化すべしという内容だ。大学は研究の場であるだけでなく、若い世代を地元に留め置き、地域で必要とされる人材を育成し、就職というかたちで社会に還元するほか、地域経済の活発化、大学自体に関わる雇用創出等、様々な効果をもたらす存在である。一方で進学時と就職時には都市部への大きな人口移動が起こるのも、昔から変わらない。今、地域の大学が置かれた環境はどうなっているのか。データを基に考察したい。カレッジマネジメント編集部 鹿島 梓大学進学タイミングにおける人口流動Ⅰ
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