カレッジマネジメント199号
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62リクルート カレッジマネジメント199 / Jul. - Aug. 2016の側面を危惧する声も増えている。最大の危惧の一つは「人間の仕事がAIやロボットに置き換わり、雇用の機会が奪われるのではないか」という点である。米MITスローン・スクールの二人の研究者の著書『機械との競争』は、急速な技術革新による雇用の喪失と格差の拡大に警鐘を鳴らしている。特に、高度なスキルを持つ人と持たない人、スーパースターとふつうの人、資本家と労働者の間で格差が拡大されるとの認識が示されている。その上で、労働者と企業が機械を味方につけるためには、「組織革新の強化」と「人的資本への投資」が必要であるとし、教育、起業家精神、投資、法規制・税制という4分野ついて、具体的なステップを提言している。日本に関しては、英オックスフォード大学のマイケル・オズボーン准教授、カール・ベネディクト・フレイ博士と野村総合研究所が共同で、国内601種類の職業について、人工知能やロボット等で代替される確率を試算している。これにより、10〜20年後に、日本の労働人口の約49%が就いている職業において、それらに代替することが可能との推計結果が得られている。AIに代替される確率を職種別に見ていくと、総合事務員が100%、会計事務従事者が95%前後、庶務・人事事務員(教育・研修事務員、人事係事務員、学校事務員等)60%以上、その他の一般事務従事者(秘書、行政事務員、医療事務員、国際公務員等)50%後半等、事務的職種の代替確率が高くなっている。寺田知太野村総研上級研究員は、極めて高度な判断を求められる仕事と、極めて単純な仕事に二極化するとした上で、「創造性が高い」、「コミュニケーション力が必要とされる」、「非定型的」等の特徴を有する職業は代替されにくいとの見方を示している。(「なくなる仕事100、なくならない仕事100」『中央公論』2016年4月号)労働力人口の減少に直面する日本にとって、AIによる生産性向上は経済成長を維持するための最も有力な解決策の一つと考えられる。一方で、仮にそれが失業の増加をもたらさなくても、仕事の二極化による中間層の崩壊が進めば、社会は不安定さを増すことになろう。仕事は人間が社会で生きる基盤である。個人に安心と希望、社会に安定と活力をもたらすために、AIの恩恵を最大限に受けつつ、負の側面を最小化する働き方を如何に見いだすか。極めて難しい根本問題の解を求め続けていかなければならない。AIがもたらす急速かつ大規模な構造的変化に大学はどう向き合うべきだろうか。仕事の二極化については、前述の寺田氏を含め、広く指摘されていることであるが、仮に二極化が避けられないとした場合、現在の我が国の教育システム、あるいは四年制大学進学率約5割という現実は、その状況に適合的であり続けるのだろうか。そのことをあらためて問い直す必要がある。また、社会全体として高度な仕事を増やし、単純な仕事を減らす道はあるのか、あるいはそもそも二極化を回避する道はあるのかといった問題にも、大学は積極的に関わっていくべきである。なぜならば、これらは高等教育や大学のあり方自体に関わる重大な問題であるからであり、加えて、大学はこれらの問題を様々な角度から検討できる多様な専門分野の研究者を擁しているからである。特に、専門分野の枠を超えた知の融合・創出を一層促進しなければならない。現実味を増してきた自動運転車を考えても、克服すべき様々な技術的課題に加えて、学術研究のあり方を問い直す好機でもある人工知能やロボット等による代替可能性が高い職業(野村総合研究所2015年12月2日News Release資料より抜粋)一般事務員、医療事務員、受付係、会計監査係員 貸付係事務員、学校事務員、寄宿舎・寮・マンション管理人 給食調理人、教育・研修事務員、行政事務員(国) 行政事務員(県市町村)、銀行窓口係、警備員、経理事務員 検収・検品係員、人事係事務員、スーパー店員、測量士 タクシー運転者、宅配便配達員、駐車場管理人、通関士 通信販売受付事務員、データ入力係、電気通信技術者 電子計算機保守員、電車運転士、ビル清掃員、物品販売事務員、貿易事務員、保険事務員、ホテル客室係、レジ係 列車清掃員、路線バス運転者(※上記職業は50音順に並べられた全100種より筆者が任意に抜粋したもの)

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