カレッジマネジメント200号
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14リクルート カレッジマネジメント200 / Sep. - Oct. 2016 オックスフォード大学については、既に拙著(注1)を含め様々な紹介が行われている。屋上屋を重ねる議論になることをいとわず、ここでの議論にとって重要と思われるその特徴をあげると、次の3点となる。 第一に、古くて新しい大学ということである。11世紀にパリ大学から分かれてできた、イギリス最古の大学である。その起源は中世の大学にあるが、ほかのヨーロッパの古い大学が現在では必ずしも世界レベルの有力大学として残っていないのに対し、オックスフォードは現在でも世界ランキングの上位を常に占めるワールドクラスの大学である。言い換えれば、中世以来の大学の伝統を残ししつつ、現代的なグローバル化に対応すべく、常に改革を進めている大学と言える。いわば伝統と革新の二面性という特徴を持つということである。 第二の特徴は、設置形態の面では「国立大学」の性格を維持しつつ、国家から一定の距離を置いた、エリート主義的な(あるいは権威主義的と言ってよい)伝統を継承している点である。端的に言えば、近代国家のために作られた日本の大学に対し、近代国家の出現以前にできた大学であり、いわばそこで教育を受けた人びと(例えばジョン・ロックや歴代の首相等)が近代社会、近代国家の建設に与った、という自負を持つ。ここから見えてくるのは、大学と社会、国家との関係というテーマである。  第三の特徴は、チュートリアルと呼ばれる教授・学習法を現在でも維持し続けていることである。個別指導を重視する教授形態は、費用のかかる、贅沢な教授学習法であるにも拘わらず、それを今日でも大学の「売り」としている。学生の十分な学修時間の確保や「アクティブラーニング」導入等の改革が議論されている日本の大学の問題を論じるためにも、教授・学習法の特徴から見たオックスフォードの経験は、有益な視点を与えてくれるはずである。伝統と革新 古き良き伝統は、ブランド力に転化しうる。しかし、グローバル化を含む現代社会の変化に対応できなければ、古いだけではブランド力を維持できない。その点では、特にこの20〜30年間の大学革新の努力は、ワールドクラスの大学としての地位を維持するうえで必要な営みだった。後で述べるチュートリアルやカレッジ制といった伝統を維持しつつ、主たる改革はカレッジを超えた、Universityが担う。特に大学院の拡張は、北米の有力大学をライバル視しつつ、現代化に向けた改革の成果である。ビジネススクールや公共政策大学院、学際的地域研究大学院等の開設は、大学院レベルで海外から優秀な学現代化を続ける中世以来の大学苅谷剛彦オックスフォード大学社会学科及びニッサン現代日本研究所教授オックスフォードから見た日本の大学200号記念特集特別寄稿

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