カレッジマネジメント200号
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64大学のブランド構築は、一見、歴史の長い大学のほうが有利に映る。「歴史」はブランドになり得るからだ。世界で威信の高い大学の多くが周年事業等で創立年を誇っていることが何よりの証拠だ。だが、歴史の長さは諸刃の剣でもある。年月を積み重ねているが故に組織慣性が強く働き、新たな環境変化に即応できない大学も珍しくない。伝統が邪魔して好機を逸することもある。歴史や伝統は使い方次第だ。しかしだからこそ、時間を掛けて築いた伝統をブランド戦略にうまく活用できている事例から学べることは多い。本稿ではその好例として國學院大學(以下、國學院)に注目したい。國學院は東京都心部の中で常に新陳代謝を繰り返す、華やかな渋谷の地に拠点を置く大学だ。建学の精神に基づいて日本と日本文化を重視した教育・研究活動を展開する一方、近年は、教育の質保証、グローバル化への意識向上、キャリア支援といった諸施策を精力的に推進し、安定的な志願者確保にも成功している。やや結論的に言えば、際立つ個性を持ち、伝統と新しさを共存させる「しなやかさ」を備えていることが國學院の強みだ。名目だけのブランドではない。國學院は、伝統に裏打ちされた、内実を伴った「國學院ブランド」を戦略的に構築するよう努めてきた。具体的にどんな取り組みが展開され、今後どこを目指そうとしているのか。渋谷駅東側に広がる文教地区に位置する渋谷キャンパスに赤井益久学長を訪ね、お話をうかがった。「國學院ブランド」の歴史的背景國學院大學渋谷キャンパスには、現代的で機能的な建物と、厳かな空気の漂う神殿が調和する空間が広がる。國學院がこの地に移転してきたのは1923(大正12)年。國學院のそもそもの淵源は、1882(明治15)年に創立された「皇典講究所」に遡る。明治維新後、欧米列強に追いつこうと急進的な欧化主義が推進されたが、その欧化万能の風潮に抗し、日本古来の思想・文化・体制を尊重しようとする気運を背景に誕生したのが、皇典講究所だった。その開黌式当日、初代総裁・有栖川宮幟たか仁ひと親王は、教職員・生徒に向けた告諭の中で「凡學問ノ道ハ本もとヲ立ツルヨリ大ナルハ莫シ」と述べられた。この「本ヲ立ツ」が、國學院の建学の精神として現代に受け継がれている。これはつまり、日本人が「拠って立つ根本を明らかにする」の意味である。かかる精神の下、1890(明治23)年、皇典講究所に国史・国文・国法を攷究する男子三年制の教育機関「國學院」が創設された。さらに1904(明治37)年、専門学校に昇格。1920(大正9)年には大学令に基づく大学に昇格している。戦後は、GHQの神道指令(1945年12月)によって皇典講究所は解散となるが、その苦難を乗り越え、1948(昭和23)年に新制大学として再生を果たす。文学部からの再出発だった。その後、経済学部や法学部が順次開設されていく。リクルート カレッジマネジメント200 / Sep. - Oct. 2016「3つの慮おもい」と「5つの基もとい」で育む國學院ブランド赤井益久 学長國學院大學C A S E2

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