カレッジマネジメント200号
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現を磨くため、学生たちは創作活動に打ち込む一方で、自らの感性を高める様々な人との出会いや経験が必要だ。また、自分の表現を相手に伝えるための教養がなければ、独りよがりの美術家にはなれても、社会で必要とされるデザイナーにはなり得ない。今回14号館を建設したことで3コースの学びが集約され、廊下を歩けば他コースの学びがガラス越しに見える教育環境ができた。専門に閉じずに横断的な空気を醸成し、双方向で多様な感性を刺激し合う意味合いもあるようだ。もともとムサビは1929年に創立した帝国美術学校を起源とするが、当時から「教養を有する美術家養成」をうたい、美術は「技術的専門性」だけでなく、「総合的人間形成」をもって成るものと考えていた。その理念は今日にもしっかりと根づいている。現在でも教育目標の第一に「幅広い教養を備え、人格的にも優れた専門家を養成する」とあり、卒業要件の第一には「造形の各分野を専攻するにあたって、総合的判断力や批判力が養われているか」とある。こうしたポリシーに合致する人材を育成するうえで、必要とされるコンピテンシー養成に合った環境整備は必須であろう。14号館は地上4階・地下1階の5層構造。大きな窯の工房あり、デザイン部屋あり、ろくろあり、CG設備あり、プレゼンルームありと、3コースに属する多彩な実習工房や教室が展開されている。全体は打ち放しコンクリートだが、教室・工房はガラス張りで中の様子がよく見える構造。端が吹き抜けになった建物中央の廊下や、南側一面に配置されたベランダから、光や風が存分に入る造りだ。また、階段の踊り場や廊下等のフリースペースを多く設けているが、これは、学生が自由に作品を展示できるようにとの配慮である。山中准教授は「大学は学生が主役なので、学生が入って初めて完成する空間にしたい」と話す。取材当日、新しい工房棟の中で学生がプレゼンや創作活動に勤しむ様子は、無機質なコンクリート空間に花が咲いたような彩りであった。デザインは必ずしもアートに閉じたものではなく、社会に開けたものだと認知されて久しい。デザイナーとは、それだけ社会的影響力を持つものの担い手ということでもある。こうした教育環境を通じて、教養あるデザイナーが多く輩出されることを期待したい。(本誌 鹿島 梓)2016年春、武蔵野美術大学(以下ムサビ)に14号館(デザイン工房棟)が完成した。キャンパスをまたぐ都市計画道路の建設に伴い、工芸工業デザイン学科の工房や関連研究室等を移転集約した建物だ。美大にとって工房は学びの肝である。ムサビでも大事にしているのは「素材との格闘」であるという。「理論だけではなく、実際の素材に触れて手を動かすことが一番大事です」と同学科の山中一宏准教授は話す。現在はコンピュータ上で完結することが可能なデザインも、実際に設計図を引き、粘土を削り、溶接作業を行い、自分の手で創り上げることを何より重視する。「卒業後、会社に所属すると、どうしても利益観点が必要となるので、こうした作業は無駄なものとされがち。学生時代は『無駄なものを作る』ことも勉強の1つ」だという。工芸工業デザイン学科は2年次の夏にインテリアデザイン・クラフトデザイン・インダストリアルデザインの3コースに分かれるため、そのコース選択に向け、1年次は好きな工房を回れるようにカリキュラム設計されている。また、造形の勉強だけでは偏るため、一般教養もしっかり教える。造形活動において正解はない。自分なりの表80リクルート カレッジマネジメント200 / Sep. - Oct. 20163台のプロジェクター同時活用が可能なプレゼンテーションルーム。机・椅子は全て可動式。企業からのデザイン依頼も多いムサビでは、外部者を招いたプレゼンテーションも多く行われる。
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