カレッジマネジメント201号
46/68
46大学入試改革論議が盛り上がりをみせている。そのキーワードのひとつとして挙げられているのが「多面的・総合的評価」だ。知識偏重ではない、面接や論文、あるいは調査書等を用いた、人物本位の入試への転換が必要だと唱えられている。周知のように、多面的・総合的評価をめぐっては、かなり以前から議論されてきた。入試の多様化そのものは臨時教育審議会の時代から提言されているものであり、1990年代に出された中央教育審議会答申には、現在の論議と類似の主張を見ることができる。ただ時代とともに、論旨や論調に変化があったことも事実だろう。そして今現在の特徴を挙げるとなれば、「学力の三要素」を踏まえた評価が求められるようになった点であり、導入を求める声が強まった、というところではないだろうか。実際、多面的・総合的評価に基づく入試に取り組みはじめた大学は少なくない。報道等で、推薦入試の導入を試みる大学、AO入試のあり方を模索する大学、あるいは高大連携に基づく入試を展開しようとする大学の取り組みを目にする機会も増えた。従来、入試改革に関しては、その性質の悩ましさゆえに、先延ばしにされがちだという側面があったが、こうした急速な動きは、それだけ大学を取り巻く環境も、そして大学関係者自身の意識も変わったことを示唆しているように思う。しかし、である。こうした目立った動きの背後に、未だ変わらぬものがひとつあるように見える。大学関係者たちの心の中にある「戸惑い」だ。学力はひとつの物差しで測れないという見方があるのは分かる。自分達の大学に、意欲あふれる若者達が多く入学してくれればとも願っている。だとしても、面接や小論文、あるいは調査書といった手法をどのように活用すれば、望ましい選抜が実現できるというのか──ビジョンを描けずにいる関係者は少なくないはずだ。参考としての「企業の新卒採用」教科学力ではない能力をどのように計測するかという問題は、かなりの難題である。正解がひとつに定まるような問題でもない。ただ、ここで視野を大学の外にまで広げれば、意欲や汎用的能力を評価しようとしてきた実践が、既に数多く蓄積されてきたことに気づく。その最たるものが、企業の新卒採用であろう。一員として組織に加わりたいとアプライしてくる者を評価する。図表1に、新卒採用のおおよその流れを記したが、選抜のみならず、母集団形成や内定後の教育(フォロー)といった点を含めても、企業と大学は基本的に同じことをしているとリクルート カレッジマネジメント201 / Nov. - Dec. 2016多面的・総合的な評価という課題大学入試は、企業の採用面接から何を学べるかなぜ、新卒採用に注目するのか濱中淳子 大学入試センター 教授1
元のページ