カレッジマネジメント201号
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54リクルート カレッジマネジメント201 / Nov. - Dec. 2016度のレベルが求められているのか分かりにくいとも言われるそうだが、「学生が自己認識を深めるためのプロセスを提供しつつ、本学との相性を見ているものなので、レベル感で語るべきものでもない。選抜して落とすための入試ではなく、現状の課題解決力を測り、入学後の学習につなげるための『接続』入試です。この入試を楽しめる学生はきっと本学の教育に合っているはず」。北陸大学は決して志願者倍率が高い大学ではない。こうした入試は手間が掛かるわりに、志願者数を獲得するのに適しているとは言い難く、往々にして経営的優先順位が上がりにくい。しかしIR的観点から伸びる人材像を規定し、必要となる力を大学教育に接続する入試設計をすることで、中長期で見て大学を支え得る人材を獲得するという方針には迷いがない。苦しい時こそ何を選ぶべきか、参考になる事例である。グローバル化に対応した人材像を模索する(武蔵大学)英語の4技能を測るために外部試験を取り入れる大学も増えている。4技能型の入試を設計することは、高校で行われる英語教育の評価として妥当性が高く、また大学内のリソースで作問を行う以外に、既に存在する4技能型外部試験の活用でそれを充当することが可能なこともあり、今年一気にその導入が進んでいる印象だ。武蔵大学もその1つである。2017年度より、一般入試「全学部統一グローバル型」を導入する。4技能型の外部試験スコアを活用し、外国語以外の試験の得点(1教科)で合否を判定する入試だ。同大学がグローバル化を加速させるきっかけとなったのは、2015年度より経済学部で始まった、ロンドン大学とのパラレル・ディグリー・プログラム(PDP)である。海外研修等を通して語学力を強化しつつ、武蔵大学教員が英語で講義するロンドン大学のプログラムを履修し、規定の試験に合格すれば、日本にいながら4年1カ月で両大学の2つの学士号を取得できる。定員は約30名。全世界共通基準の成績評価を行うロンドン大学のプログラムで、世界に通用する力を身につけたい学生を対象とする。PDPがあるから武蔵大学を選んだという学生もいるという。「志向性の高い人材を選抜し、牽引人材として鍛えあげることで、周囲への波及効果を狙っています」と、光野正幸副学長は話す。そうした選抜プログラムに所属したい受験生を対象として「特別選抜入試PDPパスポート型」を設ける等、整備を進めてきた。そうした流れを受けて、2017年度より人文学部でグローバル・スタディーズコース(GSC)を、社会学部でグローバル・データサイエンスコース(GDS)を設置する。GSCは国際的な事象を研究対象の軸とし、語学を徹底的に強化する多言語プログラムだ。特に英語プログラムでは専門科目やゼミも英語で授業が行われる。こちらもPDP同様牽引人材選抜コースであり、その人材要件に合う形で設計された入試が「全学部統一グローバル型」というわけだ。このようにまず教育プログラムの設計があり、その教育に適合し得る人材を入試で選抜するための評価方法を設計することで、全体の軸がぶれない制度設計となっているのである。こうした動きは、高校までに培った英語4技能や学力を正当に評価するものとして、進路指導の現場からの評価も高いという。同時に、国際的なプログラムを活用することで、国内の偏差値序列に一石を投じる効果もあろう。まとめ見てきたように、大学により多面的選抜方法は様々だ。設計に当たっては、学力の3要素を学内の現状と照らして落とし込み、「この大学にとっての思考力とは何をどこまで考えられることを指すのか」「それはどうしたシーンで現れやすいのか」といった細部までイメージし、それが共通認識として学内で共有されている必要がある。単に手法を真似るだけでは、高校生に刺さるメッセージは生まれない。一方で特に私学では経営的観点から、適切な志願者数を確保することも求められている。数を追えば質が落ちるというわけではないものの、経営基盤が安定した状態でなければ、機能する多面的選抜を導入するのは難しいのも現実だろう。数と質のバランスをどうとるのか、大学の軸やスタンスが問われている。(本誌 鹿島 梓)REPORT
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