カレッジマネジメント201号
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55大学は、最終学歴となるような「学びのゴール」であると同時に、「働くことのスタート」の役割を求められ、変革を迫られている。キャリア教育、PBL・アクティブラーニング等座学にとどまらない授業法、地域社会・産業社会、あるいは高校教育との連携・協働等、近年話題になっている大学改革の多くが、この文脈にあるといえるだろう。この連載では、この「学ぶと働くをつなぐ」大学の位置づけに注目しながら、学長及び改革のキーパーソンへのインタビューを展開していく。各大学が活動の方向性を模索するなか、様々な取組事例を積極的に紹介していきたい。今回は、2016年度に学部と大学院を一体として「学院」とする大胆な改革を行った東京工業大学で、三島良直学長と、水本哲弥副学長(教育運営担当)、佐藤 勲副学長(国際企画担当)にお話をうかがった。“入学がゴール”からの脱却三島良直学長は、東京工業大学の学生について「大学に入ったところがゴールになっている」ことが課題だと指摘する。「難関の入試を突破して希望の東工大に入ったときは、やはり目が輝いていると思います。ところが一部の意欲的な学生を除いて、だんだんその輝きがなくなっていく」。それは大学が、サイエンステクノロジーを学ぶことの面白さ、そしてそれを身につけた人生を何に賭けていくかという「志なり気概なりを育てる教育」をしていないからだと三島学長は言う。だからといって、「気概を持て」と精神論を説く方向への教育改革にならないのが理工系のトップ大学らしいところで、必要なのはカリキュラムの体系化だとロジカルに考える。「教えるべき科目の設定はされていても、一つの科目とその前後の科目との連携が十分考えられていない、一言で言うと『系統立ったカリキュラムではない』ので、学生から見ると、まだ教わっていないことが急に前提のように出てきたりして、だんだんつまらなくなっていく、ということは否めません」。学生の「ハートに火をつける」には、初年次の科目は、インスパイアリングなものを揃える等、漠然としている専門分野がある程度明確にできるように工夫されていること、2年次以降の専門科目は、しっかり系統立てられていることだと三島学長は言う。学部・大学院を一体化した系統的なカリキュラム三島学長が就任した4年前から、改革に向けた全面的な教育の見直しが始まった。「なぜ学部と大学院が別々になっているか」が最初の疑問だったという。「世界のトップ大学の教育システムを参考にしても、東工大の学部生の90%が修士に進学する実態からも、学部も大学院もない『系統的なカリキュラム』で、上に行くほど専門が細かくなるというのがいいのではないか」(三島学長)。2015年度までの課程は、学部の2年から学科に分かれ、大学院は改めていずれかの研究科・専攻の試験を受ける❹東京工業大学リベラルアーツを重視し、学生の志や気概を育てる教育改革を実践三島良直 学長リクルート カレッジマネジメント201 / Nov. - Dec. 2016

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