カレッジマネジメント201号
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57リクルート カレッジマネジメント201 / Nov. - Dec. 2016東工大のシラバスは、全授業の日本語版・英語版が統一されたテンプレートで、Webにも公開されている。このシラバスの整備、ルーブリックなどの評価手法、学生指導のやり方、採点の仕方、日本語・英語それぞれの授業のやり方、その他のFD研修等を全学的に統括する機関だ。大学院が3年後には専門科目をほぼすべて英語で行う計画も見据えている。教育を変えて、組織を変える「大学改革で最も難しいのは、組織を変えることだと思います。ですから初め組織を変えるということは出さずに、教育をどうするかを考えようとスタートしました」と三島学長は語る。賛成が得られやすい「教育改革」から入っても、「今東工大の学生は、立派な大企業に就職して、非常に高い評価も得ているのに、どこが悪いのか」と反対はやはりあった。しかし東工大の大学改革が目指すのは「世界最高の理工系総合大学」。「世界には通用しない側面も多いですよねと説得していくと、次第に賛成してくださる方も出てきて、6学院19系という仕組みまではなんとかいきました」(三島学長)。その過程は、いくつかの会議体を使い分けながら、丁寧に進められた。2012年10月に学長補佐室(教授3名、外部1名の計4名)、1年後の2013年9月に大学改革推進本部(理学部・工学部・生命理工学部の学部長、学部を持たない大学院である総合理工研究科の研究科長)を設置。補佐室による素案を改革推進本部で検討した上で評議会などの意思決定機関に進めた。メンバーの重複しない組織の「2段構え」、改革推進本部のメンバーは部局長ではあるが部局の利益代表ではないという位置づけ、大岡山・すずかけ台両キャンパスでの全学説明会など、様々な設計と配慮がなされた。その甲斐あって、「いよいよ最後という本丸の組織変更のところに来たら、意外に、すんなりみなさん、納得してくださいました」(三島学長)という展開になった。議論する機会を得て目が輝く学生たち改革初年度、半年が経った時点の実感として、水本哲弥副学長(教育運営担当)は、「1年生の目の輝きがいつもと違う、彼らのハートに火がついたというのを明確に感じています」と言う。例えば「東工大立志プロジェクト」の活況だ。「いちばん強く感じたのは、2000年ノーベル化学賞受賞の白川英樹先生の回でした。講堂での講義の最後に、『質問は』と言っても、普通は誰も手を上げませんよね。大人数だとなおさらです。ところが、もうめちゃくちゃ手が上がって。東工大生とは思えない(笑)。これは違うなと思いました」。佐藤 勲副学長(国際企画担当)は「実は東工大の学生って、もともとこういう議論は本当に好きなのですよ」と言う。三島学長も「逆に言うと今まで、機会や場を作ってあげることができていなかった」とうなずく。それを受けて佐藤副学長は「この教育改革で、『東工大立志プロジェクト』修士課程の『リーダーシップ道場』などの機会ができて、お互いコミュニケートすることが面白い、先生方も認めてくれる、という雰囲気ができ上がると、本当に好きだからやりますよ。そういう学生がだんだん増えてきて、それが教員に波及をしてきて、これなら自律性も引き出せるという認識をし始めている。それは大きなことではないかと思います」とまとめた。検証し改善してより良いシステムに今後の方向性については、今年入学した1年が修士課程を修了する6年後を一つの目安に、この改革が本当に成功する軌道に乗っているための施策が最重要だという。「これだけの大きな改革ですから、始めてみると、プランにバグがありました。1、2年はまだ頻繁に出てくるバグをマイナーに修正しながら、いいシステムを作り上げていく。そこからまたさらに数年で、そのシステムを軌道に乗せていく」(三島学長)佐藤副学長によれば、動き出したシステムの「バグ取り」「システム改善」となれば理工系の教員としては腕の見せ所とあって、協力的な教員も多いという。「6年後なり10年後なりに、MITやCALTechの学部を出た学生が、大学院は東工大を選ぶ、というのが一つの夢ですね」。三島学長はそう言って笑顔を見せた。(角方正幸 リアセックキャリア総合研究所 所長)
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