カレッジマネジメント201号
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65リクルート カレッジマネジメント201 / Nov. - Dec. 2016グローバル化に対しては、格差拡大など負の側面も指摘されている。これらの問題を克服しつつ、各国・各国民が相互に価値を享受し得るための知恵や工夫が求められている。大学こそ社会的課題の解決に純粋に向き合えるこれまで統計データを手掛かりに、進行しつつある社会の変化と現実を眺めてきた。一断面に過ぎないこれらの情報からだけでも、①将来に向けた人口減少への歯止め、②当面の人口減少と少子高齢化の下での経済成長、社会保障と財政の持続可能性、地域活力の維持・向上、③量的ポジションが低下する中での、我が国の国際社会におけるプレゼンスの確保、④労働生産性の向上とイノベーション、⑤貧困・格差の解消と誰もが希望が持てる社会、⑥グローバル化がもたらす問題の克服と相互に価値を享受し得る枠組みの構築、など重要なテーマが浮かびあがってくる。国、地方公共団体、企業・団体等は、これらを背景に日々持ちあがる問題に、錯綜する利害を調整し、時間を区切りながら、取り組んでいかなければならない。問題を多角的に検討し、長期的視点に立って解決策を導き出すためには、制約条件やノイズがあまりに多すぎる。そこに大学の存在価値がある。異なる専門分野の研究者が、様々な角度からそれぞれの分析枠組みを用いて、問題の構造を明らかにする。その上で、目先の利害や損得を超えて、長期的視点と客観的立場からあるべき姿を追求し、その結論を筋道立てて説明する。一つの大学内、地域の高等教育機関の協働、学会内または複数の学会の連携、大学や地域を超えた共同研究など、展開方法は様々であろう。一連のプロセスの中で、大学と実務の間の活発な対話が不可欠なことはいうまでもない。そして、その成果を政策や経営に取り入れるか否かは実務の側の問題である。これらの課題との格闘は、応用研究のみならず基礎研究をも発展させる契機となり得る。教育面においても、現実の問題を解決するために、根源的な問い掛け、多面的な見方、分析的手法、論理的思考が大切であることを学生に気づかせ、このような能力を磨く機会を提供することにもなる。研究と教育を発展させる創造的な契機をくみとるとはいえ、実際に大学教員の関心を社会の変化や社会的課題の解決に向けることは容易ではない。そのためには、学長・副学長、学部長及び職員が、これまでにも増して社会の変化や社会的課題の解決に関心を寄せる必要がある。会議時間を半減させ、捻出した時間の一部を使って様々な分野の外部講師を招いて話を聞くことなど、決断次第で直ちに着手できることである。教員にも声をかけ、会議とは異なる率直なコミュニケーションの場を広げていくことが大切である。また、社会的課題の解決をテーマとする共同研究を奨励し、そのためのインセンティブを付与することも検討すべきであろう。大学は依然として内向きと言わざるを得ない。構成員の意識を内に向かわせるあらゆるシステムや慣習を見直し、組織全体を「外向き」に転換させることはトップマネジメントの役割である。1971年6月の中央教育審議会『今後における学校教育の総合的な拡充整備のための基本的施策について(答申)』(「四六答申」)第3章「高等教育の改革に関する基本構想」に以下の一文がある。このようなさまざまな要請を今日の高等教育全体の機能の中に生かすためには、複雑高度化した現代社会に対応する新しい制度的なくふうが必要である。とくに、学問研究の自由に対する保障は、あくまで人間理性の自由な活動から生まれる提言と批判を通じて大学が社会に貢献するための基本的条件である。しかし同時に、大学は、進んで歴史的・社会的な現実に直面し、そこから研究と教育を発展させる創造的な契機をくみとることができるような社会との新しい関係を作ることによって、その社会的な役割をじゅうぶんに果たすことに努めるべきであろう。(原文のまま)この20年間に社会は大きく変化した。これからの20年間、変化はさらに加速するだろう。それに翻弄されることなく、社会的課題の解決に積極的に関与することで、大学は存在価値と持続可能性を高めていかなければならない。

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