カレッジマネジメント202号
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34リクルート カレッジマネジメント202 / Jan. - Feb. 2017受けてきた学生を大学はしっかりと受け止めることができるだろうか。IBの理念は、一貫した国際教育の観点から「使命」「学習者像」として示されている。「使命」には「人が持つ違いを違いとして理解し、自分と異なる考えの人々にもそれぞれの正しさがあり得ると認めることのできる人」とある。こうした多様性の受容が「国際的な意義」であり、世界平和に貢献するために必要なことだ。津田先生のTOKの授業では「テロ」をグローバル・イシューとして扱う。日本でグローバル・イシューといえば専ら環境問題だろう。理系も文系も扱えるから、これを取り上げることが多いようだが、テロと環境問題では学ぶ緊張感が異なる。ニューヨーク国連国際学校には、世界の国連加盟国から生徒がやってくるので、当然、イスラム教徒もいればキリスト教徒も仏教徒もいる。そんな環境だからこそテロを題材にするそうだ。まさに「使命」に基づいた取り組みだ。ただし、津田先生の授業では、このテーマに限らず、いつでも「議論は教室の中だけで教室の外に持ち出すな」をルールとしている。そのルールがなければ教室外でのいじめや差別に発展することすらあり得るからだ。「学習者像」は、「国際的な視野を持ち、人類に共通する人間らしさと地球を共に守る責任を認識し、より良い、より平和な世界を築くことに貢献する」ことに向けて努力する存在であるとされている。さて、ここまでIBとは何かを述べてきたが、IB教育の核をなすTOKは、日本の教育ではすっかりと抜け落ちているものではないだろうか。私は『セオリー・オブ・ナレッジ 世界が認めた「知の理論」』(ピアソン・ジャパン)というTOKの教科書を企画構成・編集した。この本を有名商社の副社長に渡したところ、ちょうどダボス会議に出かける飛行機の中で読んでくれ、こんな感想を送ってくれた。「ダボス会議で日本人が精彩を欠くのは、英語が苦手なだけではない。この本にあるような思考の基礎訓練ができていないことにも原因がある。これからの日本の教育は、こうしたTOKのような思考の訓練をすべきだ」。一方、オックスフォード大学出版のTOKの教科書を翻訳した、岡山大学のアドミッションセンター長で副学長の田原誠教授は、「TOKのような検証的な思考、批判的な思考は、日本の教育の中では全く教えられていません。検証的に考えることは大学で行う実験等では大切なものです。ですから、高校までにそうした経験がなくても大学に入ってからでも学べるように、検証的な思考やTOKの入門となる講座を、来年度から1年生対象に設置する予定です。国際バカロレア入試を導入するだけでなく、IBの思想を教育に取り入れていきたいと考えています。その手始めとしてTOKの本を翻訳しました」と出版の経緯を話してくれた。TOKのような思考の訓練を大学の初年次までに学んでおくと学問の捉え方も変わるのではないだろうか。さて、このIB認定校は世界にはどのくらいあるのだろうか。2016年11月段階で、世界140以上の国・地域で4664校がIBプログラムを実施している。日本ではPYPが21校、MYPが11校、DPが28校であり、CPは設置されていない。まだまだ少ない。また、2015年にIBディプロマの最終試験を受験した世界全体の受験者数は7万5919人。そのうち日本人は761人、全体の1%に過ぎない。数値目標である200校を達成したところで、1コースは約20人だから200IBの理念日本の教育に抜け落ちた思考の訓練IBディプロマの資格取得者はどのくらいいるのか図表2 <IBの使命> 国際バカロレア(IB)は、多様な文化の理解と尊重の精神を通じて、より良い、より平和な世界を築くことに貢献する、探究心、知識、思いやりに富んだ若者の育成を目的としています。 この目的のため、IBは、学校や政府、国際機関と協力しながら、チャレンジに満ちた国際教育プログラムと厳格な評価の仕組みの開発に取り組んでいます。 IBのプログラムは、世界各地で学ぶ児童生徒に、人がもつ違いを違いとして理解し、自分と異なる考えの人々にもそれぞれの正しさがあり得ると認めることのできる人として、積極的に、そして共感する心をもって生涯にわたって学び続けるよう働きかけています。コミュニケーションができる人探求する人知識のある人考える人信念をもつ人心を開く人思いやりのある人挑戦する人バランスのとれた人振り返りができる人IBの学習者像
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