カレッジマネジメント202号
39/54
39リクルート カレッジマネジメント202 / Jan. - Feb. 2017「似たような学生を集める」という戦略さて、ここまでの議論をもとにアドミッション・ポリシー策定への示唆を取り出すとなれば、「よい学生を採ろうとするならば、組織と領域のどちらに軸足を置いたポリシーを定めるのか、検討を加えたほうがよい」「ポリシーに盛り込む特徴の数について思案するより、見直し作業に努めたほうがよい」ということになろう。ただ大学全入時代という現状を踏まえれば、より注目すべきは、最後に見た既存社員関連の結果ではなかろうか。選抜性の面で不利な立場に置かれている企業でも、納得いく採用ができているところがある。そしてその企業は、自覚的なのか無自覚的なのか、いずれにしても既存社員タイプを高く評価するような視角で採用面接に臨んでいるところだった。この知見を起点にすれば、「学生募集に悩む大学も、在学中の学生と似たタイプの入学者を求める姿勢で、多面的・総合的評価をデザインすればよい」という主張も編み出されよう。なるほど、これまでほとんど論じられたことがない提案だが、考えてみれば、ひとつの指針としてあり得るように思われる。なぜ、そのように言えるのか、2つほど理由を挙げておきたい。1つは、既存メンバーを念頭に置いた選抜をすることで、組織文化が強化され、大学(学部)の特徴がより明確になるからである。学生募集に困難を抱える大学を見渡せば、新興の大学や学部だということも少なくない。歴史が浅いなか、自分達のカラーというものを作り出していく必要もあろう。だとすれば、これまでの経験の延長上に自分達の立ち位置を確立する。どのような学生を育て上げることが得意なのか、その特性を磨き上げる。こうした方策に力を入れる意義は再考されて然るべきではないだろうか。2つめの理由は、受け入れた学生達を教育する体制に関わるものである。学生募集に悩む大学の特徴の1つに、比較的小規模校が多いことが挙げられる。ひいては教員数も少なく、学生の多様化はそれなりに大きな負担となろう。大学入試は、何も選抜場面のみで終わる問題ではない。その先に「教育」という日常が待っている。ここで、面接担当者調査のデータに戻れば、選抜性の低い企業の関係者だという者の多くは、地方の小~中規模企業に勤務していた。既存社員に似たようなタイプの人材を受け入れながら、安定した空気のなかで新人教育を行う。そうしたなかで「うちの採用面接はうまくいっている」と感じるようになる。決して派手ではないが、参考にすべきひとつのパターンであるように捉えられるのである。とはいえ、ここまで述べたとしても、やはり突拍子のない提案だという印象を持たれるかもしれない。仕方がないところもあろう。とかく「多様性」という概念の価値に支持が集まりやすい昨今である。企業関係者の間では、「多様性によって組織は活性化する」「多様性のなかでこそ新しいアイデアは生まれる」といった言説があふれている。教育界では、「多様な人々を受容し、尊重すること」の必要性が説かれている。そもそも、本連載の出発点である多面的・総合的な評価自体、「多様な学びを、多様な方法で評価する」ことを主眼としたものだ。「似たような学生を集める」というのは、時代の流れと逆行する方針とも言える。ただ、それでも最後に改めて強調しておきたいのは、冷静に状況を見極めることが大事だという論点である。誰もが「メンバーの多様性」を求めることができるわけではないし、求めなくてはいけないわけでもない。おそらく、多様性という戦略には、それに合う段階や条件というものがある。「多面」と「多様」。あるいは「多様なメンバー」に「多様な能力」、そして「多様な入試」。似たような言葉であり、紛らわしく、併せて使われることも多いが、区別して考えることも必要だ。特定のタイプに狙いを定めた多面的・総合的評価があってもよいはずである。企業の実態が教えてくれることのひとつに、単純かつ当然でありつつも看過されがちな、こうした判断があるように思われる。※1周知のように、今現在も「学力の3要素」に配慮し、かつ「カリキュラム・ポリシー」と「ディプロマ・ポリシー」との一貫性を有した「アドミッション・ポリシー」へと改善することが求められている最中である。※2試みとして、事務系総合職の採用面接について、「オリジナルな要件を設定している」とした者の回答をさらに丁寧に分析すると、「勤務先企業は、創造力・発想力を要件として掲げている」という傾向が強く、他方で「コミュニケーション能力・表現力を要件として掲げている」という傾向は弱いという特徴が見いだせた。
元のページ
../index.html#39