カレッジマネジメント202号
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49リクルート カレッジマネジメント202 / Jan. - Feb. 2017ボードをはじめとする見せ方の工夫、分析手法の導入・普及、戦略・計画策定や教育改革への参画などを行いながら、上に述べたような機運を醸成していくことが、IR機能を担う組織に期待されている。IRの基盤なしに適切なKPIの設定は難しいこのようにしてIRの基盤を整えない限り、適切なKPIの設定も、KPIという手法を大学機能の高度化につなげることも難しい。末次(2015)によれば、佐賀大学は、2012年にPDCAサイクルの支援を目的にIR室を設置し、教学、学術、社会貢献、経営基盤の4つの視点で、教職協働による取り組みを開始している。その活動によって得られたデータを学長、役員、学部長等に提供することで、第3期中期目標・計画策定に向けた検討を支援するとともに、国が設定を求めたKPIを、実質的改善につなげるために、「Outcome(達成すべき目標、成果・効果)」と「Performance Driver(Outcome達成のための行動計画・行動目標)」の2つに整理するなど、独自の工夫を行っている。大工舎・井田(2015)は、常に目標を達成している組織の特徴として、①達成すべきこと・実現すべきことが数値で明確になっている、②達成のための重要成功要因(CSF=Critical Success Factor)は何かを徹底的に掘り下げている、③事実とデータを重視する、④必要な情報とは何かを考えている、⑤振り返りを行い、次につなげている、の5つをあげる。そのうえで、業務活動の最終的な成果を測定する指標としての「成果KPI」と、最終成果を創出するための活動やプロセスを測定する指標である「プロセスKPI」の2つを設定することを提案している。佐賀大学の工夫と共通する考え方である。IRを担う専門職人材の最大のソースは大学職員IRについては、IRer (Institutional Researcher)など専門職人材の必要性を指摘する見方もあるが、大学職員がその最大のソースとなり得ることは、山本氏や末次氏の活躍や発言から明らかである。明星大学学長室企画課の岩野摩耶氏もその一人である。学校基本調査を含め年間約50にのぼる学内外からの調査に対応するなかで、情報を一元化して蓄積し、アクセスできる仕組みの必要性を感じたことがきっかけとなり、IRに関心を持つようになる。そして、科学研究費補助金奨励研究に採択され、「大学情報公開をIRに活かす−効果的な情報効果を通した職員組織の改善−」をテーマに、海外大学のインタビュー、国内の入試・広報担当職員へのアンケート調査、国内のIR担当者のインタビューを中心に研究を行い、その成果を公表している。岩野氏は、『文部科学教育通信』に3回にわたり掲載された報告のまとめで、「英国と日本との比較で一番大きい点は、前者には執行部・学長のデータリテラシー(読み解き能力)、強固なリーダーシップ、経営力(経営に対する意識)があるということである」と述べている。我が国の大学にとっては、専門職人材の育成以上に、重い課題である。【参考文献】岩野摩耶(2016)「科研費(奨励研究)による職員のIR研究①〜③」『文部科学教育通信』No.382,No.383,No.392遠藤功(2005)『見える化』東洋経済新報社小林雅之・山田礼子編著(2016)『大学のIR-意思決定支援のための情報収集と分析』慶應義塾大学出版会末次剛健志(2015)「第3期中期目標期間の計画策定や評価対応に向けたIR業務の在り方の検討」『大学評価とIR』第4号,26-34大工舎宏・井田智絵(2015)『KPIで必ず成果を出す目標達成の技術』日本能率協会マネジメントセンター山本幸一(2016)「設立初期のIRオフィスにおける意思決定支援の効果的運用に係る検討」『大学評価とIR』第6号,12-20 岩野摩耶氏(明星大学)

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