カレッジマネジメント203号
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11リクルート カレッジマネジメント203 / Mar. - Apr. 2017また、多様な分野のケーススタディを見ると、外部ステークホルダーの関与する「ガバナンス」のあり方や課題も職業教育分野によって大きく異なっている。どの職業教育プログラムもより高い質を目指すのは当然のアプローチであるが、それはあるいは高度化、場合によっては長期化に向かう。図2に示すように、保健医療、教育・社会福祉の分野では、教育訓練プログラムの高度化においては、雇用主や、専門職が教育プログラムの目的設定や教授学習方法により深く関与していくようになる。ただし、高度化したプログラムが既存のプログラムと同じ資格を提供したり、それ故に下級レベルのプログラムへの縮小圧力がかかったりする。NQF先進国のオーストラリアでは体系的な訓練パッケージのもとで、コミュニティ・ケアの介護職員から准看護師養成へ、さらには大学における看護師養成へスムーズに編入学して上級資格を取得するという「学習経路」が確立しており、参考とすべき点も多い。他方で非国家資格領域においては、高度化は必ずしも外部ステークホルダーの関与を深めない。例えば、社会科学系のプログラム等は、高度化は単に学術的教育要素への近接という結果に帰着することが多く見られる。こうした対照的な傾向も踏まえつつ、質の高い職業教育のガバナンスを専門分野別に検討していくことが、特に日本の職業教育の課題なのである。日本の職業教育プログラムの最大の問題は、質を認定し質の向上を促す方策がないことである。NQFは学術型のプログラムと職業型プログラムを並行して位置づけ、相互の移行ないし浸透可能性(permeability)を保障する社会制度である。その導入の検討によって、職業教育の適切な社会的評価、学術的教育との対等性の探究が進む。現在の学修成果(learning outcomes)重視の高等教育政策をより確実なものにするために、NQFは不可欠なものと筆者は考えている。学位プログラムを学修成果によって記述していくことや、〈ディプロマ〉・〈カリキュラム〉・〈アドミッション〉の3つのポリシーを一体で運用することなどが大学に要請されているが、こういうアプローチは上述の枠組みのもとでこそ徹底されるのではないだろうか。大学でも専門分野ごとの学士プログラムの到達目標を調整していく「チューニング・プロジェクト」や、日本学術会議による「分野別参照基準」開発等がなされているが、まだ現場に適用されるような完成形とは言い難い。むしろ、学位・資格枠組みが形成されて初めて、日本の大学教育の質も確実に国際的に保証・認定できることになると考えられる。また、日本ではNQFができていると考える人もいるだろう。しかし、看護師や臨床検査技師といった医療系国家資格教育プログラムは、4年制の学士プログラム(ISCED6)、3年制の短期大学士プログラムや専門士プログラム(ISCED5)等、同じ資格が複数の段階で養成されている。養成される看護師の知識・技能等のレベルは同じなのか、違うのか。また、調理師養成課程は、専修学校の1年制・2年制の専門課程や高等課程で展開されているが、日本の調理師養成課程は国際的にどのようなレベルの学位・資格プログラムと対応するのだろうか。学術型教育を基本とする大学セクターは、これまで「インプット」や「プロセス」の基準をクリアーすれば質が保証されていると考えてきた。しかし、「エンプロヤビリティ」への要請等、実際に「アウトカム」としての「学修成果」を大学が明確に定義して検証すること、そしてそれが労働市場や職業の世界でのレリバンスを持つものかどうかが問われている。800校近くある多様な大学がどこまで多様な、あるいは最低限共通の学修成果を追究していくのか、政策サイドの適切なガバナンスも必要であろう。他方で職業教育のセクターは、職業のために必要な知識・技能・態度等を形成することが求められているという点で、これまでは「アウトカム」による市場淘汰のメカニズムが働いてきた。NQFを導入し、むしろ、職業で求められているコンピテンシーと学修成果との明確な対応関係を示し、職業教育の質の認定を受けていくことが要求されてくる。NQFは、学習者の学修成果、職業人のコンピテンシーを基軸にしながら同じレベルの学術型や職業型の教育訓練プログラムを認定していくものである。その過程で、産業・職業関係ステークホルダーと教育供給側との対話、多省庁間の対話が不可欠となってくる。ここに、「新たな職業教育のモデル」が生まれることを期待したい。特集日本型職業教育の未来国家学位・資格枠組みによる職業教育のアウトカム明示と3ポリシーの実質化

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