カレッジマネジメント203号
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12急速に進む技術の進歩やグローバル化の奔流が、今まで「当たり前」と考えてきた経験則を書き換えている。「知識社会」という言葉で象徴されるように、人や情報が自由に国境を越えてしまう現在では、多種多様な情報をいかに活用できるかが、国や地域のみならず組織や個人の競争力を規定している。今日の国際社会では、世界観、基本的な価値観、社会的・経済的・政治的構造に至るまで、全てが変化している。さらに、各国や各地域の内外で、政治、経済、社会、文化等のあらゆる面において熾烈な競争が繰り広げられるとともに、今後に向けた持続可能性(サステイナビリティ)が課題となり、21世紀を乗り切るための新しい「知」が渇望されている。このような情勢の下で、高等教育を通して高度な知識や技能を身につけた人材を育成することの重要性が認識されている。特に近年、職業教育の重要性が強調され、欧米をはじめ多くの国や地域が、高等職業教育の改革や充実に積極的に取り組み、その競争力を高める努力が行われている。このような世界的潮流に共通するキーワードは、第三者による質保証及び教育パラダイムから学習パラダイムへの転換である。本稿では、高等教育のパラダイム・シフトを分析し、質保証について解説した上で、日本の職業教育質保証の今後の方向性を議論する。高等教育のパラダイム・シフト─ 教育パラダイムから学習パラダイムへ産業革命から始まった工業化に支えられて、産業社会は大発展を遂げたが、20世紀も終わりに近づいたころ、経済などの一面的な豊かさの追求のみによっては豊かな社会を実現することはできないことに、私達は気づいた。この状況に対応するために産業社会にはなかった新しい知の創造が急務となり、21世紀は、専門的知識・技能によって、予測を超えた事態に対応しなければならない知識社会に突入している。知識社会が必要とする能力は、産業社会のそれとは異なる(1)。産業社会は、比較的画一性が高い社会であったために、そこで必要な知識、技能は、比較的定義しやすく、また社会で共有される傾向にあった。従って、知識伝達型の教育や暗記型の学習が中心となったわけであろう。標準的な知識や技能を習得して、それらを如何に応用して広げていくかが問われるとともに、組織の中でリクルート カレッジマネジメント203 / Mar. - Apr. 2017職業教育における“質保証”とは何か川口昭彦一般社団法人専門職高等教育質保証機構 代表理事独立行政法人大学改革支援・学位授与機構 顧問・名誉教授

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