カレッジマネジメント203号
13/72
13は、構成員の協調性や順応性が重視された。これに対して、知識社会は、ある程度物事の動向が予想できる産業社会とは違って、“答の見えない問題” に対して最善の解を導きだす能力が重要視される。周囲の環境が刻々と変わる中で、こうすれば正しい結果が出るという模範解答は、どの分野でもなくなりつつある。従って、未知の事態に挑戦する意欲・創造性が必要となり、一人ひとりの多様性、個性、能動性が求められるとともに、それらをまとめていくネットワーク形成力・交渉力が不可欠となる。このような社会のパラダイム・シフトに対応して、高等教育も「教育パラダイム」から「学習パラダイム」へ、あるいは「教員の視点にたった教育」から「学生の視点にたった学習」への転換が肝要である。即ち、基本的な知識や技能を獲得するだけでは十分ではなく、知識・技能の活用能力や創造性、生涯を通じて学び続ける基礎的な能力を培うことが重要視される(表1)。知識・技能は課題を解決しようとする行動に結びついた時に初めて意味を持つものであり、そうでないものは単なる情報にすぎない。従って、知識・技能は、それが取り組むべき課題によって、位置づけや重要性が異なってくることになる。これからの知識社会に貢献する人材を如何に育成するかを考える際、日本の職業に関わる能力開発の変化も念頭に入れる必要がある。新規学卒者の一括採用とともに、長期雇用を前提とした企業内教育・訓練が、わが国の雇用慣行の大きな特徴であった。これまでは、学校において基礎的な知識・技能を身につけさせて、職業に必要な専門的知識・技能は、主に企業内教育・訓練等を通じて、仕事をしながら育成していく方式が一般的であった。ところが、最近のアンケート調査によると、人材育成の課題があるとする企業は全体の約7割に達している(3)。その理由として、指導する人材や時間の不足等が挙げられる。具体的には、非正規雇用の増加により、正規雇用者の労働時間の増加が企業内教育・訓練中心の人材養成に割く時間を圧迫していること、日本の企業の大半を占める中小企業が厳しい経済状況下で人材育成にかける費用・時間を縮小していること、せっかく育成しても辞めてしまうのではないかという不安から企業内教育・訓練を実施する動機づけが低下していること等、企業自身が人材育成を行う余裕を失っている状況がうかがえる。また、非正規雇用者の増加も、職業能力の形成に問題を生じさせている。一般的に、非正規雇用者は、正規雇用者に比べて企業内教育・訓練を受けられる機会が限られており、自発的な取り組みによる能力向上を求められる傾向にある(3)。さらに最近、副業を認める会社が増えつつあり、一人ひとりが、自らの意思で職業能力を獲得する機会も多くなっている。このように、わが国の雇用慣行の変化も、高等職業教育が育成すべき人材像に影響を与えている。知識社会とグローバル化は切り離せない。グローバル化のメリットは、チャンスの拡大であろう。これまであったビジネス上の障害がグローバル化によって取り払われることにより、ビジネスチャンスは大幅に拡大する。特に、国内経済の成長力が落ちてきている日本企業にとって、この恩恵は計り知れない。一方、デメリットのひとつは、不確定要素が増えることである。別の言葉でいえば、リスクの増大である。関係する国、社会あるいは人が増えることによって、これまでは想像もつかなかった事態が起こる可能性が高くなる。そのリスクをリクルート カレッジマネジメント203 / Mar. - Apr. 2017特集日本型職業教育の未来 教員中心の学習環境学生中心の学習環境クラスの活動教員中心、一方向学習者中心、双方向教員の役割事実の伝達者、常に専門家協力者、しばしば学習者指導の強調点事実の暗記関係性、問い、創造成功として提示するもの基準準拠理解の質成績評価多肢選択到達度評価、ポートフォリオ、パフォーマンス評価テクノロジーの利用ドリルと練習コミュニケーション、アクセス、協力、表現表1 学習環境の変化(2)
元のページ
../index.html#13