カレッジマネジメント203号
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31リクルート カレッジマネジメント203 / Mar. - Apr. 2017である。「学習費用」「仕事での疲労」「勉強時間不足」が三大要因となっていることが分かる。特に費用面についての課題は大きい。専門職大学院は、その教育内容と規模から考えると決して割高ではないとはいえ、授業料負担は総額で数百万円に及ぶことも多い。学ぶ側が個人的に負担するものとしては非常に高額である。特に30〜50代の社会の中核を担う層では、子どもの教育費負担と重なり、入学を阻害する大きな原因となっている。日本よりも社会人入学者の比率の高い欧州諸国の場合、高等教育機関の学費は総じて無償か非常に低額であり、公費による負担が大きい。日本で社会人の大学院進学が進まない理由は、決して学習意欲の問題ではなく、この負担の大きさだと考える。近年この点については改善が検討されており、まず2014年より教育訓練給付制度が拡充され、専門職大学院は多くがその認定を受けた。給付型奨学金の検討も進んでおり、今後さらなる対策が期待される。時間の面についても現在の「働き方改革」が進めば、改善していく傾向になると考えられる。欧米と比較した際の修了後キャリアの違いアメリカやヨーロッパにおいては、専門職学位の取得は大幅な年収アップに結びつく可能性が高い。そのため、アメリカであれば、高額の学費を奨学金で賄ったとしても短期間でペイできることが期待できる。社会人大学院生が増えない理由として、日本では学位を取得したとしても直接的な収入アップにつながらないからだとする意見がある。欧米諸国と同様に学位の取得が収入のアップに直結するよう、企業や社会に求めていこうというのである。確かに日本社会では、資格や大学院の学位は直接的な昇進や採用の条件とはならず、それよりも実績・経験が重視されることが多い。これまで長年資格や社会人大学院の情報誌を制作してきた経験からいうと、日本は決して、資格社会でも学歴社会でもない。そのため、学位の取得を高収入に直結させる制度を作ろうとしても、社会的に合意が得られるかといえば、甚だ疑問だと考えざるを得ない。一方で実際のインタビューでは、大学院の修了後、年収アップや昇進を実現した社会人学生に出会うことも多い。学位が直接つながらなかったとしても、前述した高いコンピテンシーを身につけて業績をあげ、それがその後のキャリアの構築につながっているのである。こうした実例が社会的にあまり知られていないことは大きな課題である。現在の大学院進学率では、職場等大学院検討者の身近な場所には大学院進学者が存在していないことが多い。実際の進学者をロールモデルとして積極的に紹介する機会が求められる。オーバースペックの解消に向けて最後に、大学院への進学者を増やすうえでまず手をつけるべきポイントと考えるのは、履修証明プログラムや科目等履修といった枠組みを使用した、学ぶ側が求めるテーマに即したプログラムの拡充である。学ぶ側が求め、また手に入れているものが「学位」よりも「得られる知識・スキル」や「コンピテンシー」である現状からすると、30単位(修士課程、及び「一般」専門職大学院の場合)という課程の規模は、多くの場合、学ぶ側が求めるものよりも大きすぎる。いわば「オーバースペック」となってしまっているのである。それが、「費用」や「時間」の課題をより大きなものとしている。2016年度より創設されたBP(職業実践力育成プログラム)においては、正規課程のみならず、履修証明プログラムも認定対象となっており、今後も拡大の方向性にある。科目等履修制度を持ち、単科での履修が可能な大学院も増えてきた。これらは学ぶ側のニーズにピンポイントで即したプログラムとして設計されており、今後利用者の拡大が見込まれる。とはいえ、分野的にも地域的にも、まだまだ社会人の学びのニーズに十分に応えられる状態にはなっておらず、拡充の余地は非常に大きい。自らの興味に即した学習を通して、大学院教育の有効性を実感した社会人を増やしていくこと。地道であるが、この活動こそが、日本の職業教育における大学院の存在価値を高めていく最も確実な手段ではないかと考える。特集日本型職業教育の未来
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