カレッジマネジメント203号
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40産業・就業構造の変容とともに職業の高度化が進む現在、質の高い一人前の職業人を育成するための職業教育のあり方が問われるようになった。「専門職大学(仮称)」の設置が答申され、新しい職業教育モデルの確立が構想されるなか、これまで職業教育を担ってきた専門学校が自らをどう位置づけ直すのか注目されている。そこで課題となるのは、現場で必要とされる技術・技能をいかに効率的に教えるかということだけでは、恐らくない。目まぐるしく、変化の激しい21世紀である。容易に陳腐化するかもしれない技術だけを積み重ねても、先は見えてこない。むしろ必要となっているのは、教養や理論、さらには主体性、コミュニケーション力といったソフトスキルだ。変化に柔軟に対応する基盤になり得るものと言ってよいだろう。そんな職業教育の高度化を前に、既に一部の専門学校は進化を始めている。その代表が辻調理師専門学校だ。同校は、食の技術や知識に関する集積力・開発力・発信力を蓄積し、本物を探求する姿勢を持つ「食業人」として活躍できる専門人材の育成に尽力してきた。昨年からは、3年制学科を立ち上げる等、新たな試みも始めている。新たな職業教育を担える機関として何に拘り、どんな未来を見据えているのか。辻調理師専門学校(辻調グループ。以下、辻調)の辻 芳樹校長にお話をうかがった。フランス料理を体系化したカリキュラムに戦後、料理人のほとんどは厳しい徒弟制度の下、現場での修行を通して育成されていた。必ずしも学校での職業教育が中心ではなく、調理の技術や所作は今で言うOJTを通して学ぶものだった。しかし、1958年に調理師法が制定され、調理師の資格整備・資質向上を求める動きが登場する。料理人にも社会的責任が要請されるなか、法律に従って体系的に調理師を育成する時代が到来したと言ってよい。この時代の風を捉えたのが、辻調の創立者である辻 静雄前校長だった。静雄氏は、調理師養成施設の必要性を感じ、それが1960年大阪・阿倍野に設立された「辻調理師学校」につながった(図表1)。静雄氏は学校設立を機に勤めていた読売新聞社を辞め、フランス料理の特訓と研究を開始する。当時、日本でフランス料理に関する教育は体系化されておらず、拠って立つものがほぼゼロに等しい状態だった。教科書も、翻訳された研究書や参考書もなく、まして国内でフィールドワークをして情報収集することなど到底望むべくもなかった。日本で受け継がれてきたのは「西洋料理」であって、必ずしも「フランス料理」そのものでなかった。辻校長は当時の状況をそう説明する。そこで、静雄氏は一から料理を学び、フランス料理を対象として研究を始めた。早大文学部仏文科卒という経歴も役立った。静雄氏はフランス本国から原書を取り寄せてフランス料理に関する本格的な研究を行い、1964年には『フランス料理理論と実際』も出版するに至っている。単に調理技術に拘泥するのでなく、積極的に本物を知る努力もリクルート カレッジマネジメント203 / Mar. - Apr. 2017料理の研究と教育の好循環を支える教員FDを展開辻 芳樹 校長C A S E食領域辻調グループ

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