カレッジマネジメント203号
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6先進諸国の第三段階教育(tertiary education、高等教育Higher Educationとほとんど同義に使われている)は、マス化・ユニバーサル化など量的に拡大しつつ質的な変容・多様化を進展させており、今多くの国で職業教育の位置づけ方が重要な課題となっている。わが国でも大学セクター拡大と並行して、短期大学、高等専門学校、専門学校等の非大学セクター、国際標準教育分類でいえば短期第三段階教育段階(ISCED5-short cycle tertiary)が発達してきた。OECDの第三段階教育政策レビュー(森利枝訳『日本の大学改革』明石書店、2009年)では、学校種や設置形態など第三段階教育機関の多様性という面が高く評価されている反面、この多様性が全体としての政策的舵取りがなく展開しており、労働市場での適切性を欠いた教育制度となっているという指摘もある。その後、職業への移行困難の広がりに対して、中教審では高等教育段階における職業教育が議論され、2019年度から「専門職大学(仮称)」がスタートすることになった。「新たな高等教育機関の教育では、企業等で求められる実践性を身につけさせるため、特定の職業分野における専門性の陶冶と、専門性の枠に留まらないより広い基礎・教養の涵養とを、同時に実現する必要がある。また、技能の教育と学問の教育の双方を結びつけることにより、新たな職業教育のモデルを構築していくことも期待される。」(中教審2016)と述べられているように、盛りだくさんの要求がこの新たな高等教育機関には詰め込まれている。中教審は「新たな職業教育のモデル」がこれから構築されるというのだが、それでは何が「古い職業教育のモデル」だったのだろうか。また、「新たな職業教育」を期待しなければならなかった日本の職業教育の課題とは何だろうか。その前に、まず質の高い職業教育とは何か、ここで暫定的に定義してみたい。「職業の」「職業による」「職業のための教育」を満たすことが、その必要かつ十分な条件であると考えている。これはデューイの著書『民主主義と教育』や『経験と教育』の中で、伝統的な学術的教育優位に対する職業教育の確立という思想がもとになっている。質の高い職業教育プログラムとは、「教育の目的(goals)」において「職業のための教育」が明確に位置づけられたものである。そして「教育の方法論(methodology)」として、「職業による教育」、つまり企業等と連携した実習・実技の修得機会が豊富に用意され、それを現場の知識・技能を熟知する者が指導・教授している。さらに「教育の統制(governance)」では、「職業の教育」として職業関係者によるガバナンスが十分に機能しているものを指す。即ち、〈目的〉・〈方法〉・〈統制〉の三次元で、産業や職業の社会的ステークホルダーがより深く関与するリクルート カレッジマネジメント203 / Mar. - Apr. 2017第三段階教育における職業教育──諸外国との比較の観点から吉本圭一九州大学主幹教授・第三段階教育研究センター長第三段階教育の多様性と職業教育確立への展開職業の、職業による、職業のための教育

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