カレッジマネジメント203号
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68リクルート カレッジマネジメント203 / Mar. - Apr. 2017後、大学の自主性がもっと増えると期待していた。しかしこれまでの経過を見るとそれとは逆に、政府の介入の度合いが一段と強まってきたといえよう」と警鐘を鳴らす(日本経済新聞2015年6月29日朝刊)。国と国立大学法人の権限関係は、法人化当初と何ら変わっておらず、国は、ガバナンス改革による法制度面の整備や「学長の裁量による経費」の新設などを通じて、学長がその機能を発揮し易いような環境を整えてきた。他方で、大学の裁量で自由に使える予算が減れば、運営の弾力性が損なわれ、新たな改革施策を展開することも一層困難になる。また、競争的資金へのシフトが進むほど、文科省との関わりを強め、その意向に沿った提案・申請に注力することになる。さらに、国立大学に対する多方面からの要求や改革の遅れを指摘する声が高まれば、文科省は国立大学への働きかけを一層強めざるを得ない。法人化時に意図した通りに国立大学の自主性・自律性が増してこなかったとすれば、このような背景によるものと考えられる。大学の努力と工夫で健全な競争的環境を創出その意味からも運営費交付金による安定的な財源の投入が何より不可欠となる。しかしながら、危機的とも言える財政状況を背景に、財務大臣の諮問機関である財政制度等審議会は国立大学法人予算の編成に当たり厳しい指摘を行い、それに文科省が見解を示し、国大協が声明を発表するという攻防が繰り返されている。国立大学に投入される予算の総額を増加させることは難しいとしても、大学の裁量で自由に使える予算の比率を高めることは検討されるべきであろう。教育研究を高度化するために競争的環境は必要である。しかしながら、意欲のある教員の多くは既に自らを厳しい競争環境に晒し、より高い研究成果を上げるべく努力を重ねている。問題は、研究力の底上げをどう図るか、組織としての教育力をどう高めるかである。大学単位で取組構想を提案させたとしても、学内で推進を担うのは意識の高い教員や当該予算で雇用された任期付きの教職員である。多忙な教員はますます多忙化し、運営の中心となる教職員に任期があれば、組織的に知識やノウハウを蓄積することも難しい。教員は国内外の学会で研究業績を競い、学部・研究科は競合する他大学の学部・研究科と教育の質を競う。そのような環境を整え、健全な競争を促すことが大学執行部の役割である。競争的環境の創出に当っては学問分野の特性への配慮も不可欠である。人文社会科学と自然科学を同じ方法や尺度で評価することは難しく、教育方法や研究支援の仕方についても、それぞれの学問分野に相応しいあり方を検討する必要がある。そのためにも、専門分野を超えた率直で密度の濃い対話が学内で活発に行われなければならない。自主性・自律性を高めるとは、各大学がこのような状況を自らの努力と工夫で作り上げることである。そのためにも、国立大学法人化の原点に立ち返らなければならない。人材を中心に経営資源を如何に活かしきるか法人化に当り、国立大学法人制度の概要として、①大学ごとに法人化し、自律的な運営を確保②民間的発想のマネジメント手法を導入③学外者の参画による運営システムの制度化④非公務員型による弾力的な人事システムへの移行⑤第三者評価の導入による事後チェック方式に移行の5つが示されている。これらの実施状況をどう評価し、どこを改善すべきか、国のレベルでも個別大学のレベルでも十分な検証がなされているとは言い難い。民間的発想のマネジメント手法として導入された役員会や経営協議会について、各大学は積極的に活用しきれているだろうか。学長や理事に包括的な執行権限を付与することで、形式的な審議を減らし、実質的な審議を充実させることもできる。また、全学的な重点施策をそれぞれどのタイミングで役員会に報告するかを予め明確にしておくことで、改革の速度を上げることも可能になる。学外出身理事・監事や経営協議会学外委員等学外者の知恵や経験を、経営の高度化に活かすための工夫も必要である。

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