カレッジマネジメント203号
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69リクルート カレッジマネジメント203 / Mar. - Apr. 2017経営は、目的・目標を定め、経営資源の獲得と活用により、それを実現するプロセスである。中でもヒト、モノ、カネ、情報という経営資源を如何に効果的・効率的に活用するかは、経営の巧拙を決める重要な要素である。そのような観点で国立大学法人を眺めると、活かしきれていない経営資源は数限りなくある。その中で最も重視すべき資源は当然ながら人材である。特に、職員については、教育改革、学生・キャリア支援、産学連携、社会・地域連携、国際交流など、高度な知識や専門性が求められる業務が増加するとともに、教職協働の機運も高まり、仕事を通して能力を飛躍的に伸長させる大きな機会が訪れている。その一方で、多くの国立大学において、法人化以前からの人事慣行が根強く残り、仕事の仕方も大きく改善されない中、業務量の増加と人員の削減だけが進んでおり、結果として、この好機が活かされていないのは極めて大きな機会損失である。本稿の執筆にあたりメールとSNSを用いて、全国の国立大学の20代後半から40代前半の中堅職員の意見を集めてみた。主な意見をできる限り原文のまま並べてみたのが左の表である。筆者の認識と概ね共通しており、いずれも現場の状況を的確に捉えているものと考えられる。大学ごとに改めて実情と課題を把握する必要があるが、徹底した仕事の簡素化・効率化による業務負荷の軽減、職員に期待する役割の明確化、キャリアパスの明示とより早期の役職登用を含む人材配置・育成方針の明確化、部課長層のマネジメント力強化、ワークライフバランスを含む働き方改革などの施策を総合的に検討・推進することは、国立大学共通の最重要課題の一つと言える。これらの取り組みを含めて、学長や理事・副学長の役割は増す一方であり、より高いマネジメント能力が求められる。しかしながら、その養成は個々人に任されたままである。経営の本質を理解するとともに、人を使い、組織を動かすための考え方や方法を学ぶ。そのための教育システムの整備は喫緊の課題である。ある国立大学の医学系の女性助教から次のようなメールが寄せられた。「今後どのような基準で大学教員が評価され、選定され、身分が保証されていくのか全く不透明です。若い学生を基礎研究に勧誘することも無責任でできません。ますます実験・研究に携わる人材が不足し、業績が出せないという悪循環に陥ってしまいます。私もいつまで続けられるものか不安な気持ちでおります。」このような不安を少しでも払拭できるための真の改革を加速させなければならない。✓大学全体にも、部署や個人にも、求められるものが多過ぎる✓日々の仕事を淡々と処理している方が、余計なことに振り回されずに済むという負のマインドが若手にも広がりつつある✓部局から大学本部に異動したら、毎日会議の陪席ばかりで疲弊するとの話を聞く✓大学が職員に何を求めているのかがだんだん分からなくなってきた✓国際や広報への外部人材の登用を聞く度に、なぜ職員に任せてもらえないのかと思う✓URA(University Research Administrator)のような仕事こそ法人化時に描いた職員の理想形ではなかったのか✓キャリアパスが見えず、自分の将来がイメージできないのが一番辛いと感じる部分だ✓係長になるのに早くても12年くらいかかるとモチベーションの維持が難しい✓細切れの組織と3年程度の人事異動、評価や研修等、人の成長を引き出す工夫が足りない✓地域等、広域的な枠組みの中でキャリアを形成していく仕組みも必要✓大目標を立てる人はいるが、それを整理して業務に落とし込んでいく人がいない✓職員一人ひとりに目配りし成長を手助けしようとする者は少数で、職場において充実感を感じにくい職場風土は依然として変わっていない✓事務部門の大きな問題はミドルマネジメントの弱さ✓異動官職が減って学内昇任が増えた結果、内向きの論理が強くなった印象がある✓責任を伴う仕事を教員に押し付けようとしている職員もまだまだ多い✓教員と職員の分担を整理して、教育研究以外の仕事を可能な限り職員に任せることが必要✓子育てしながら働き、キャリアアップを諦めることのない働き方の実現が必要✓在宅勤務や裁量労働制等、働き方の選択肢を増やしても良いのではないか✓地元就職率は目安としては理解できるが、KPIとして設定することには違和感がある✓法人化後に起きた良い変化の一つは企業など他の組織や地域・社会との連携が進んだこと国立大学の中堅職員(20代後半から40代前半)から寄せられた意見
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