カレッジマネジメント203号
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7「プログラム」が質の高い職業教育と言うことができる。日本でも、個別にはそうしたモデルに匹敵する教育プログラムはある。しかし制度としては、特に第三段階教育においては、どのようなものが質の高い職業教育であるのか、これまで日本では学術的にも政策的にも十分に議論・定義されてはこなかった。新たな高等教育機関を創設しようとする今こそ、第三段階教育における質の高い職業教育のモデルを議論し、国家学位・資格枠組み(national qualications framework、以下NQFと略)への関わり方を含めて方向を示していく時と考えられる。2015年のUNESCO総会では、「職業教育(正式には技術職業教育訓練Technical and Vocational Education and Training)についての勧告」が14年ぶりに改訂されている(http://portal.unesco.org/en/ev.php-URL_ID=49355&URL_DO=DO_TOPIC&URL_SECTION=201.html)。ここでは、職業教育の範囲は「広範な職業分野、生産、サービス、生活に関わる教育、訓練、技能開発」とされ、その目的は「個人をエンパワーし、雇用とディーセント・ワーク(人間らしい仕事)、生涯学習を推進すること」であり、以下「政策とガバナンス」「質とレリバンス」等、合計7章60条の勧告がなされている。この全てを満たす国はもちろん存在しないが、いくつかの観点で注目される卓越した諸外国の事例を見ておこう。ユネスコ勧告の一つの柱である「政策とガバナンス」において注目されるのは、「デュアル・システム」で定評のあるドイツである。手工業系から生産、サービス、事務に至る331の職業(2013年現在の職業訓練法による認定)が対象となっている。連邦政府が当該職業のプロファイル(職務内容や必要なコンピテンス、労働環境・処遇、訓練する知識・技能等)を調査・規定し、商工会議所加盟企業等での訓練を組織し、他方で州政府の所管する職業学校での座学中心の教育がなされる。企業では見習い訓練生であるとともに学校の学生であり、そうした運営や位置づけにおける二重性を特徴とする。これらの一連の過程に職能団体も深く関わり、「広範な社会的ステークホルダーの対話」による協調主義(コーポラティズム)の運営がなされている。制度上は中等教育段階に位置づけられているが、今日では、社会人のキャリアアップのための継続職業教育訓練が課題となり、中等教育修了後の大学入学資格保有者も多く参入している。また介護や保育といった保健福祉領域等では、第三段階教育レベルの学校型の職業教育訓練が広がっている。「デュアル・システム」とは異なり州ごとの運営であったりするものの、そうした協調主義(コーポラティズム)の考え方がモデルとなって、教育訓練をより標準化していこうとする動きが進んでいる。ユネスコ勧告のもう一つの柱である「質とレリバンス」においては、NQFが注目される。NQFは、この勧告の柱における各要素(「学習プロセス」「職業教育スタッフ」「学位資格システムと学習経路」「質と保証」「労働市場と職業世界へのレリバンス」「情報とガイダンス」)を結びつける重要なツーリクルート カレッジマネジメント203 / Mar. - Apr. 2017特集日本型職業教育の未来https://www.gov.uk/government/uploads/system/uploads/attachment_data/le/461298/RQF_Bookcase.pdf職業教育におけるユネスコの新たな勧告と諸外国の強み「政策とガバナンス」のドイツモデル英連邦系諸国から世界に広がる「質とレリバンス」図1 イングランドの学位・資格枠組み(Regulated Qualications Framework)の図説

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