カレッジマネジメント203号
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8リクルート カレッジマネジメント203 / Mar. - Apr. 2017ルとなっている。2015年段階で150カ国以上、国連加盟国で4分の3以上がNQFの開発・導入・展開を進めている(CEDEFOP, “Global inventory of regional and national qualifications frameworks - Volume I:Thematic Chapters”,2015)。NQFは、理想的には、国内全ての学位(称号と呼ばれるものを含む)や資格等を、複数段階のレベルという縦軸と、学習における志向性の特色等による横軸によって区分されたマトリックス(イングランドの新しい学位・資格枠組み(RQF)では、図1のように11段の本棚に様々な厚さの本を置くイメージで紹介)に位置づける制度である。その源流には1960年代に遡るフランスの国家資格分類がある。そのポイントは、普通教育と職業教育のプログラムを、学習のボリュームやレベルに応じて分類し、それを職業の世界での資格レベルに対応づけたものである。今日的モデルは、1990年代から英連邦諸国でNQF導入がスタートし、2000年代の地域参照枠組みとしての欧州の学位・資格枠組み(EQF)制定がその展開を加速した。先進NQFとして定着している代表格は、スコットランドの学位・資格枠組み(SCQF)とオーストラリアの学位・資格枠組み(AQF)である。SCQFは、大学・継続教育カレッジ・中等学校が域内で既に提供している既存の学位・資格プログラムや職業資格を一枚の表に並べている。いわばタータンチェックの美しい枠組みとなっている。それは、職業教育セクターから大学セクターへの、またその逆の移行など「学習経路」の浸透性確立に大きく寄与している。他方、AQFは、産業分野ごとに必要な職業能力を科学的に分類し、能力養成方法を示した「訓練パッケージ」(training package)をもとに教育訓練プログラム開発を進めるものであり、車輪のハブからのびたスポークで区切られた10レベルのイメージ図で解説がなされている。スコットランド、オーストラリア両国の学位・資格枠組みの違いは、既存の教育プログラムをもとにスタートするか、産業の能力ニーズをもとにスタートするかの違いとなるが、いずれも教育と職業をどのようにつなぐか、その媒介言語として、共通知識や技能等色々な表現で表される学修成果に焦点が当てられている。ここに、学術と職業との適切な対等性を考えるヒントがある。例えば、ドイツの学位・資格枠組み(DQR)では、同じレベル6に「学士」と「マイスター資格」を位置づけている。表1に示す通り、そのレベルで修得される「知識」の説明として、「批判的理解力」と「今日的技術発達の知識」とを対等な位置関係にあるものとして認定し、そのことで両者を社会的に認定していく根拠とすることができるのである。無論、Level 6包括的な技術作業及び技術問題の計画、処理、評価に関するコンピテンス、及び学術科目の各専攻内での、あるいは特定職業活動分野での活動の自律的なプロセス管理のコンピテンスを修得している。その要件は、複雑さと頻繁な変更により特徴づけられる。専門職的コンピテンス人格的コンピテンス知識技能社会的コンピテンス自律性基本的な学術原理や広範囲の統合された知識を修得している、学術学科の実践的な応用ができる、また主要な理論や方法論への批判的理解力を持つ(ドイツ高等教育学位・資格枠組みのレベルⅠ:Bachelor levelと対応)あるいは今日的技術発達にかかる広範囲で統合された職業的知識の修得<専攻と将来的な専門分野の中で>複雑な問題を処理するための特に広範囲の一連の方法論を修得(ドイツ高等教育学位・資格枠組みのレベルⅠ:Bachelor levelと対応)あるいは<特定の職業活動領域の中で>上記と同様の方法論を修得している専門家チームで働く際の責任を想定できるあるいは集団や組織をリードする責任を示すことができる学習の目的を定義し、省察し、評価できる。また学習と仕事のプロセスや構造を自律的に、また持続可能な形態で構造化できる学術学科の将来の発展のための知識を修得しているあるいは<職業活動の領域で>他の領域と交流するための適切な知識を修得している頻繁な課題の変化に応じながら、特定の状況下で様々の基準を考慮しながら新たなソリューションを見いだし、またそうしたソリューションを評価できる他人に技術的な発展を指導し、またチーム内で問題を適切な方法で扱うことができる複雑な専門的な問題についての議論や解決案を専門家に提示することができる。またそうした専門家と将来の発展のために協働できるコンピテンシーと学修成果、教育と職業の接点としてのNQF説明指標表1 ドイツの学位・資格枠組み(DQR)におけるレベル6(学士レベル)の説明指標

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