カレッジマネジメント203号
9/72
9リクルート カレッジマネジメント203 / Mar. - Apr. 2017一定の対等性の社会的な認識があるからこそそうした合意が導かれるのであって、ドイツでも大学入学資格アビトゥアはこのDQRでの位置づけの合意に至っていない。またNQFは、各レベルの能力を説明するための指標(descriptor)によって他国のNQFとのレベルの換算を行う仕組みである。そこではブルームの分類学が多く利用され、「知識」と「技能」はどこの国でも共通に用いられている。しかし、その他の次元として何が来るのか、国によって大きな違いがある。「知識」と「技能」の「応用」という個人の仕事の責任に限定されたものか、組織での働き方にかかる「態度」なのか、場合によっては「道徳」を求めるのかまで、アングロサクソン諸国、ドイツ語圏諸国、またアジア圏諸国で、労働組織と個人の仕事のあり方の違いも見えてくるのである。日本、中国、韓国等の東アジア諸国では、学位・資格枠組みの導入にはまだ多くの課題がある。日本も含めて後発近代化諸国では学歴主義が発達し、中国の科挙による選抜の歴史がそれを強化している。即ち、大卒学歴やそこにつながる普通教育が重視されている。このため初期職業訓練が適切に発展せず、就業後の継続職業能力開発が多様に展開するものの、それは人的資本論でいう企業特殊的であったり、小規模だったりと、可視性・転用可能性に乏しい結果をもたらしている。こうした現状への挑戦の一例として、韓国では2002 年から「国家職務能力標準(National Competency Standards: NCS)」の開発が進められてきた。これは、24大分類に分けられた産業分野ごとに、能力規定、学習モジュール開発、応用導入の3ステップで展開している。(1)産業現場で業務を遂行するために要求される能力(知識・技術・態度)を多段階で規定、(2)その修得や評価のための学習モジュールを開発、(3)教育訓練機関でそれを活用したプログラムを開発、という工程である。第一ステップの能力規定は、雇用労働部と韓国産業人力公団が担い、第二ステップで内閣府と教育部が関わり、韓国職業教育訓練研究院などが学習モジュール開発を行っている。第三ステップの活用に当たっては、2016年度から国営企業では採用においてこれを活用すること、特性化高校・専門大学・公共及び民間職業訓練においては全面活用することが国策として進められ、中小企業等の人事評価にも活用を促している。各国の職業教育は、その労働市場の特徴、職業への移行の特徴によって性格づけられる。日本の労働市場は、古典的な人的資本論に忠実な「ジョブ型」ではなく、内部労働市場の発達した「メンバーシップ型」として知られている(濱口桂一郎『新しい労働社会』岩波新書、2009年等参照)。「メンバーシップ型」労働市場では採用後に企業内訓練を経て企業特殊的知識・技能を獲得するというモデルであり、採用までに特定の専門的な知識や技能を求めるよりも、むしろ社会人基礎力等の汎用的能力が強調される。他方で、学校教育と職業への移行において、序列化した学校制度は、学生の能力指標を示す格好の尺度を提供する。このため、学力相場と企業の格とを対応づけるような就職・採用が広がる。若者も保護者も教員も、また学校自身も、その尺度のもとで自らの地位を高めたり、教育プログラムを高度化したりすることへのドライブがかかる。さらに、今未来論として第4次産業革命や超スマート社会(society5.0)等、グローバルな社会変動が見通され、多くの職業が消えかつ登場すると言われている。だから専門に特化した職業教育よりも、教養や幅広い学習をしていくべきだというメッセージもまことしやかに流布している。しかし、現実に職場で使われるものは専門的な職業能力であり、新しく生まれる要求も、それまでの専門的な職業能力をもとに転換されるのである。専門的な職業能力がなければ何も始まらない。長期的には、日本においても新たな「ジョブ型」労働市場が展開し、職業教育が必要とされ充実していくと見られる。新たな「ジョブ型」労働市場が広がっていけば、企業内で形成される職業能力を可視化し、人事評価、転職、採用に活用する課題が政策テーマとして再浮上してくる。厚生労働省の「職業能力開発体系」「技能検定」「職業能力評価基準」、内閣府の「キャリア段位制度」は、そうした課題を先取りするものである。また、その作成の経過は、韓国における特集日本型職業教育の未来韓国の国家職務能力標準NCSに見る東アジアの挑戦日本における教育と職業の接続と職業教育
元のページ
../index.html#9