カレッジマネジメント204号
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18IRは米国の高等教育機関で1960年代に誕生したと言われている。教育、経営、財務情報を含む大学内部の様々なデータの入手や分析と管理、戦略計画の策定、アクレディテーション機関への報告書や自己評価書の作成を主な仕事として、IR部門は米国の多くの高等教育機関に常設されている。こうした活動から、組織運営に関する意思決定の支援部門というニュアンスが強い一方で、教育改善のためのデータを集積・分析し、教育改善のツールとしての学生調査の開発にも関わっている。その意味で、教育の質保証にも深く関わっているのがIR部門と言える。近年、高等教育の質保証推進政策を背景として、GPA制度・単位の実質化等の方策が多くの日本の大学で実施されるようになった。さらには、教育情報の公表に伴いデータを一元化し、様々なデータベースに情報を提供するだけでなく、情報を検索して報告書を作成していくために加工すること、大学のガバナンスの整備が求められるなかで、ガバナンスの支援機能としてのIRも新たな仕事となりつつある。即ち、IRの利用の方法によっては、各大学での「内部質保証システム」としても機能することも期待できる。IRには様々な定義・用法があり、一義的には定まっていないという見方があるが、日本の現状では各大学の活動として実施されてきただけでなく、答申や国立大学法人評価や私立学校等改革総合支援事業の評価項目の1つとしてIR部門の設置や活用が挙げられているように、IRの進捗が高等教育政策に組み込まれていることが多義性という特徴をもたらしている。また、現在の日本におけるIRは政策動向に合わせて変化し、その多様な機能から、IRの概念を統一することは極めて困難でもある。大学の規模・特質・設置形態によってもIRが目的とするところは様々である。IRが今後どのように日本の高等教育の文脈において位置づけられ、IR部門が恒久的な組織として成立するかは不確定要素が多々あることは否定できない。しかし、IRの明確な定義や用法が定まっていないにせよ、大学の経営に関する意思決定、教育の改善、さらには戦略計画策定のために、大学内外に存在するデータを収集し、クリーニングをしたうえで、分析し活用することがIRの基本原理である。その中でも学習成果の測定から教育改善を目指すという教学面に焦点を当てた活動が、教学IRである。一方、日本のIR研究及び実践のモデルとしての米国のIRは、多義性という特徴と高等教育政策への親和性を根幹としながらも、専門性を高めることでIR市場を確立している。日米のIRの発展過程の背景には、高等教育を巡る共通点と時間軸から生じる差異を筆頭に様々な差異が存在している。 1960年代に誕生し、高等教育政策の流れの中で、IRの位置を模索してきた米国のIRの発展過程とリクルート カレッジマネジメント204 / May - Jun. 2017学習成果可視化のための内部質保証システムの充実に向けて──IRの果たす役割と日本のIRの課題とは何か山田礼子同志社大学社会学部教授・学部長、高等教育・学生研究センター長、前中央教育審議会大学分科会大学教育部会専門委員。国立大学法人評価臨時委員、日本高等教育学会事務局長、大学教育学会副会長、初年次教育学会前会長。<近年の主な著書>『高等教育の質とその評価:日本と世界』(編著)東信堂 2016年『大学のIR:意思決定支援のための情報収集と分析』(編著)慶応義塾大学出版 2016年『Measuring Quality of Undergraduate Education in Japan: Comparative Perspective in a Knowledge Based Society』 (編著)Springer 2014年『学士課程教育の質保証へむけて―学生調査と初年次教育からみえてきたもの』(単著)東信堂 2013年IRと内部質保証システム

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