カレッジマネジメント204号
19/72

19近年急速に浸透している日本のIRの発展過程について比較検討し、 IRが大学教育全体の質保証を支援していくうえで、あるいは内部質保証として機能していくうえでの現状の問題点とこれからの展望・示唆を考察してみたい。IR部門の役割と日本のIRの現状IR部門は情報公開とも密接に関連づいている部分と公表できないデータを扱うという性格を伴っていることから、内部組織として位置づけられ、外に積極的に発信できない性格を伴う部門、即ち大学機関にとって重要なデータを管理する部門であると同時に、意思決定に大事なデータを取捨選択していく役割も担っている。大学での学習を通じての教育の質保証を求める動きが急速に見られるなかで、国立大学、私立大学を問わず、高等教育全体における教育成果の提示が重要な論点となっている。評価の対象となる大学にとって教育成果を測定するうえで、教育に関するデータをどのように集積し、測定し、そしてそれらの結果を改善につなげていくかということは大きな課題である。認証評価の第三サイクルでは「学習成果の可視化」に重点が置かれ、そのためにも各大学の「教育の質保証」あるいは「内部質保証」の充実が必然的に求められることになる。その意味では、IR本来の役割に加えて、認証評価の第三サイクルでの学習成果の可視化の実現に向けて、IRへの期待はより高くなっているとも言える。それでは日本のIRの現状はどうなっているのかを振り返ってみよう。2014年に国公私立大学783校を対象に実施した文部科学省先導的大学改革推進委託事業「大学におけるIRの現状とあり方に関する調査研究」(東京大学)の調査結果を参照すると、IR組織の設置状況について、「IR名称の組織がある」(9.7%)と「IR名称はないが、担当組織がある」(15.1%)は合わせて約4分の1となっている。「全学レベルの組織がない」割合は67.9%を占めているが、IR組織を設置していない大学のうち、設置に関して、「検討中」が36.1%となっており、IR組織の設置が計画の中に組み込まれつつあることが窺える。IR組織の設置目的(複数回答可)としては、「教育改革の成果のチェック」、「大学評価への対応」が6割を超えており、「大学経営上の必要性」(57.1%)、「学生への支援」(48.0%)、「大学の説明責任を果たすため」(38.5%)が重要な設置目的の上位を占めている。調査結果からは、①IR組織はガバナンスとの連関から設置され、ガバナンスへの貢献を視野に入れて、執行部への情報の提供・分析を行う比率が高くなっているという政策動向に応じてIRの変化の兆しが見られること、②評価対応及び情報への対応は外部との連関から重要視されつつあること、③全般的に学習成果対応の教学IRが推進される等、教育の質保証への対応が進捗していることが確認される一方、財政に関する業務へのIR部門の関与はそれほど高くなく、「大学経営上の必要」との設置目的との相違も散見された。また、設置形態や規模によっての活動には多様性があることも確認できた。例えば国立大学の評価室等は、大学の自己評価書の作成や中期目標・中期計画の策定のための準備等を中心に従事しており、しばしばこうした活動が日本型IRとして受け止められている場合も少なくない。さて、IR活動に欠かせない各種の教育活動・財政等のデータに関しては、全学のデータを統合的に収集・蓄積している大学の割合は比較的高くなっていることが結果として示されている。しかし、データへのアクセス権限は主に担当部局が持ち、執行部、IR担当者の権限はまだ不十分で、またIR担当者は執行部、担当部署よりデータのリトリーブも高くはない。評価報告書を策定する過程においては、山積しているデータを探し、まとめることが必要となるが、関係部署との関連からデータを入手することは、大規模大学では容易ではない。大学評価に必要な資料やデータ収集や整備がなされ、その分析と活用のプロセスが明確である場合には、効果的な自己評価報告書の作成を円滑に行うことができる。学習成果の可視化と教育の質保証次に、教育の質保証と学習成果の可視化についてその関連を見てみたい。教育の質保証の契機となったのは、2008年の中央教育審議会答申『学士課程教育の構築に向けて』の公表であったが、それ以降、各大学が自らの教育リクルート カレッジマネジメント204 / May - Jun. 2017特集認証評価第3サイクルに向けて

元のページ  ../index.html#19

このブックを見る