カレッジマネジメント204号
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35リクルート カレッジマネジメント204 / May - Jun. 2017(両角亜希子 東京大学大学院教育学研究科准教授)革をするのには向いていないのかもしれないが、大学の特性や組織構造を理解し、一歩ずつ着実に改革を進めていける利点はあったのではないかという。小野学長は東京女子大学で32年間教員をしてきたが、学長が改革を進めようとすると、教員が「なぜ必要なのか」と議論する姿を何度も見ており、「そもそもの共通ビジョンがあるとやりやすいのでは」と感じていた。だからこそ、学長になってすぐにビジョンを策定し、このことが改革を着実に進めている。学内の雰囲気、大学の成り立ちをよく理解しているものが学長になったことの良さがあったのではないか。ただし、内に閉じこもるのではなく、学外の目も意識的に取り入れている。自己点検・評価の客観性を高めるため、2009年頃から外部評価を熱心に入れている。例えば、2014年度の文部科学省の女性研究者研究活動支援事業や2010年度GPプログラム(マイライフ・マイライブラリー)での外部評価、2012年度のFD活動三女子大学連携相互評価等がそれに当たる。2014年度の全学的な自己点検・評価においても、自己点検・評価だけでなく、2015年前期に外部評価も行いその評価結果を発表しているが、学外の意見を学内改革に結びつける動きも着実に進んでいる。大学のことを理解したうえで、様々な視点から客観的評価をしてくれる方に外部評価委員をお願いしているが、それにより、例えば、客観的に見て奨学金が足りない等の指摘を受けて改善を行ったこともある。また、外部評価だけでなく、理事会との関係の構築の仕方にも工夫が見られる。例えば将来計画推進委員会には、学長推薦の外部理事が入っている。他大学の学長経験者であり、改革へのアドバイスもしてもらえるため、理事会側に改革プロセスを知ってもらい、サポートを得るのに役立っているという。また、理事会・教授会合同作業部会を不定期で開催している。理事会の中の中心メンバーと大学の役職者が集まるもので、何かを決定するわけではないが、忌憚のない意見を言ってもらうことが非常に参考になっているという。皆が理解をひとつに、一体として改革を進めるために、こうした工夫を鋭意重ねている。内部質保証の恒常化で改革を進める学長の方針・ビジョンで改革の方向性を共有し、2つの委員会を連動させてPDCAサイクルを回すことで、様々な教育改善に着実につながっている印象を受けたが、今後の課題について尋ねてみた。教育の質向上につなげるシステムとして機能させることは最も重要な課題で、それは今後も変わらないという。そのためには、学長のリーダーシップが大事で、学長自身がその気になってやらないと動かない。動かすうえで、方針を決めることは大事で、リーダーシップを支えるのが方針やビジョンになると強調する。また、内部質保証は認証評価に合わせて、7年に一度やるのではだめで、恒常的に行っていく必要があるという。ウェブサイトに毎年のように発表されている報告書を見ると、既に、東京女子大学の自己点検・評価活動は、徐々に恒常的になりつつある印象を受ける。ただ、教員の負担を考慮し、最近はテーマごとに行っているという。例えば、2011年には全学共通カリキュラム、2012年にはFD活動と学科科目の自己点検・評価を行い、現在は外国人留学生特別科目の自己点検を行っている。テーマを限定することで負担は減らしつつ、エビデンスを基に改革するマインドを植え付けていく。それと同時に、全学的な自己点検はこれまで通りプログラムの完成年度ごと、つまり4年ごとに見直すが、報告書の作成が目的化しないように気をつけていきたいという。東京女子大学の教員には自己点検・評価が法的義務ではなかった時代から教育に熱心な伝統があるが、全学的に必要な点は、将来計画推進委員会などで引き続き、議論していくのが重要である。2018年4月以降の学部体制の変更も、学外だけでなく、学内にもしっかり広報して、教育改善を実質的につなげていく。大学の教育活動を派手にアピールしないが、着実に、堅実に教育改革を進めている好事例ではないだろうか。点検・評価し、それを着実に改善につなげており、そうした諸活動をウェブサイトで学外にも公表している。補助金も手当たり次第に申請するのではなく、教育事業にあったものであれば申請してきたという。「学修成果の検証はもともとやろうと思っていた時期にAP事業の募集があったので、申請した」と話し、政策ありきではなく、内部の計画通りに着実に進めている姿もまた東京女子大学らしいと感じた。こうした改革が学生の成長にどのようにつながっていくのか、楽しみに注視していきたい。特集認証評価第3サイクルに向けて

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